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今月の鑑別室から 2008.7.11
天然ジンサイト
(株)全国宝石学協会 技術研究室
川野 潤(理学博士)

 最近、非常に稀な宝石である天然ジンサイトを検査する機会を得た。以下にその特徴をご紹介する。

 
ジンサイト(和名:紅亜鉛鉱)は、亜鉛(Zn)の酸化物でZnOの理想化学式であらわされる。この組成の化合物は工業的に”亜鉛華”として生産され、ゴムの添加剤や化粧品、塗料や医薬品として広く利用されてきた。また近年は半導体としての性質が着目されており、工業的に重要な役割を果たしている。
  1980年代の中頃から、工業用に合成した際の副産物として生成したと思われる単結晶の合成ジンサイトが、宝飾用にカットされて市場で見られるようになった。この石は透明で美しい橙赤色や緑色〜黄色を呈することから話題となり、’90年代には各地のジェムショーにも数多く出回るようになった。本誌「ジェモロジィ」でも’95年12月号で取り上げている。最近になっても2007年の「The Journal of Gemmology」 (Vol.30, pp257-267)で取り上げられて生成過程が解説されており、比較的注目度の高い素材であると言えるだろう。
  一方、天然ジンサイトは、アメリカ・ニュージャージー州のフランクリンに産するものが有名であるが、産状としては塊状や粒状のものがほとんどで、宝石質のものは稀である。硬度が4〜4.5と低いことからコレクター向けの宝石として珍重されてきたが、一般のジュエラーには天然石よりむしろ合成石のほうが認知度が高く、天然石に関しては情報があまりないのが実状である。最近、天然カット石を検査する機会を得たので、その宝石学的特徴をご紹介しよう。

 今回検査したのは1.62 ctのオーバルカット石および、0.21 ctの変形カット石である。前者は和名のとおり非常に濃い紅色を呈するが(写真-1)、後者はやや明るい色をもつ(写真-2)。比重は5.69 (静水重量法)で、屈折率は標準的な宝石用屈折計ではオーバースケールであった(文献値2.013−2.029)。

写真-1:
1.62 ct の天然ジンサイトのカット石
写真-2:
0.21 ct の天然ジンサイトのカット石

  長波紫外線下では不活性であったが、短波紫外線下では暗赤色を示した。合成石の場合、地色にもよるが、主に黄〜オレンジ色の蛍光を示し、いずれも短波より長波の方が強いという報告があり、今回観察した天然石の特徴とは異なっている。
拡大検査においては、液体、液膜、ネガティブクリスタル、管状および微小インクルージョンが石全体にわたって分布しているのが観察できた(写真-3)。一方、合成石は非常に透明度が高く、ほとんどインクルージョンを含まないか、微小インクルージョンやディスロケーションなどを含む場合があると報告されている。
  蛍光X線による組成分析を行った結果、主成分のZnのほか、色因と考えられるマンガン(Mn)が、濃赤色のカット石にMnOとして約1.75 wt%、明るい赤色のカット石に約0.36 wt%含まれていた。

写真-3:
0.21 ct の天然ジンサイト中に観察された液体および管状インクルージョン



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