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今月の鑑別室から 2008.5.8
MexiFire”および“PeruBlu”と呼ばれる合成オパール
(株)全国宝石学協会技術研究室
小林 泰介(FGA, GIA.GG)、阿依 アヒマディ(理学博士, FGA)

 最近、写真-1に示すオレンジ色とブルーのカット石を検査する機会を得た。一見したところ、よく知られているメキシコ産ファイア・オパールとペルー産のブルー・オパールに酷似しているが、検査の結果、人工生産物であることが分かった。その後の調査において、これらはRMC Gems Thai Co Ltd.によって製造され、天然オパールの重要な生産地であるメキシコとペルーに因んで“MexiFire”と“PeruBlu”という商品名で、2007年から販売されている合成オパールであることがわかった(Jewellery News Asia, November 2007)。
以下にこれらの合成オパールの宝石学的特徴を紹介する。

写真-1:
RMC Gems Thai Co Ltd.製合成オパール。左から商品名“MexiFire”と“PeruBlu”

 今回検査したオパールは、ファセット・カットされたファイア・オパール1点とブルー・オパール2点である。ファイア・オパールはオレンジを呈し、遊色効果は示さないが、透明度が良く、ガラス光沢を有する。外観はフラクチャーのない良質のメキシコ産天然ファイア・オパールに酷似している。一方、ブルー・オパールは、しばしば“エレクトリック・ブルー”と表現されるような極めて彩度の高いパライバ・トルマリンのようなブルーを呈しており、一般的に半透明〜不透明のペルー産の天然オパールより透明度が高く、フラクチャーやクラックなどをまったく含まない特徴がある。
これらの宝石学的特性を調べると、ファイア・オパールの屈折率は1.35で、比重(静水法による)は1.57、ブルー・オパールの屈折率は1.39で、比重は1.75であり、いずれの特性値も、メキシコ産の天然ファイア・オパールやペルー産のブルー・オパールの特性値を下回る。これらの特性は天然オパールとの識別上の重要な特徴となりうる。交差偏光板の間では、ともに異常消光反応が認められた。拡大観察では、密度が高く散在した微小インクルージョンによるクラウドや気泡などが石全体に容易に認められた(写真-2)。また、天然オパールには見られない微細な波状成長構造が認められた(写真-3)。なお、今回の合成オパールには、京セラ製やギルソン製の合成オパール特有の“リザードスキン”が認められなかったことから、新たな合成法で作られたと考えられる。合成ファイア・オパールは一部の領域に長波紫外線下で微青白色、短波紫外線下では微黄緑濁色を示し、合成ブルー・オパールは、紫外線下では長波・短波とも不活性であった。カラー・フィルター下ではともに変化は認められなかった。ハンディ・タイプの分光器では、合成ファイア・オパールには500nmから短波側の波長に向けての吸収が認められるが、合成ブルー・オパールには赤色部に弱い吸収が見られるだけで明瞭な吸収は認められなかった。

写真-2、
密度が高く散在した微小インクルージョンや気泡(“MexiFire”)
写真-3:
微細な波状成長構造(“MexiFire”)

分光光度計による透過スペクトル測定において、紫外-可視領域では今回の合成オパールと天然オパールとの間に明瞭な相違は見られなかった。一方、近赤外線領域においては、合成オパールには通常見られないH2O(水)やOH(水酸基)に伴う吸収が認められ、極めて天然オパールのスペクトルに酷似していた。しかしながら、天然ファイア・オパールは、約1450、1930nmを中心とした強い吸収ピークが出現するが、合成ファイア・オパールでは約1410、1900nmに吸収ピークがシフトし、約2260nmに強い吸収が検出された(図-1、2)。

図-1:
分光光度計による紫外−近赤外領域の透過スペクトル測定/“MexiFire”とメキシコ産天然ファイア・オパール
図-2:
分光光度計による紫外−近赤外領域の透過スペクトル測定/“PeruBlu”とペルー産天然ブルー・オパール

FT-IRによる赤外分光分析では、合成オパールの透過および反射スペクトルは、ともに一般的な天然オパールの透過および反射スペクトルと酷似する。ただし、透過スペクトルの中の吸収ピークを精査すると、天然ファイア・オパールは弱い吸収ピークが約4500cm-1に出現するのに対し、今回の合成ファイア・オパールでは約4420cm-1に最も強い吸収ピークが現れ、約4500cm-1にも弱い吸収を伴う。
 蛍光X線装置による成分の分析では、合成ファイア・オパールの場合は主成分Siに加えて微量のFe(鉄)、合成ブルー・オパールに微量のCu(銅)が検出されたが、その他の特徴的な元素はともに検出されなかった。さらにLA-ICP-MSによる微量元素分析を行ったところ、着色元素であるFeとCu以外に、両色のオパールにB(硼素), Na(ナトリウム), Mg(マグネシウム), Al(アルミニウム), K(カリウム), Ca(カルシウム), Sc(スカンジウム), Ti(チタン), Cr(クロム), Mn(マンガン), Ni(ニッケル), Zn(亜鉛), Sr(ストロンチウム), Rh(ロジウム), Sn(錫), Pb(鉛)などが検出された。天然ファイア・オパールと天然ブルー・オパールには、このタイプの合成オパールに検出されないBe(ベリリウム)、 V(バナジウム)、 Ga(ガリウム)、 U(ウラン)、Srなどの微量元素があり、Mg、 Al、 K、 Ca、 Znなどの元素の含有量に差異があることが分かった。



※今回の検査に使用した合成オパールは、(株)ミユキ様からご提供いただきました。ここに記して深謝いたします。



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