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Lab. Alert 2008.1.29
ブルー・アラゴナイト
全国宝石学協会技術研究室 阿依アヒマディ(理学博士, FGA)

 最近、写真-1に示すビーズのネックレスが鑑別依頼に持ち込まれた。一見したところ、従来から知られているペルー産ブルー・アラゴナイトに酷似しているが(Gems & Gemology Winter 1992, Gem News)、検査の結果、産地の特定には至らなかったが、天然のアラゴナイトと着色されたアラゴナイトが混在していることが判った。

写真-1:
ペルー産ブルー・アラゴナイト原石(左)と検査に持ち込まれたビーズ状アラゴナイト

斑点状の青色と緑色部を含んだ白色のビーズは、ほぼ8mmの均等なサイズで、鈍いガラス光沢であった。表面および内部を拡大して検査したところ、一連のビーズには3種類の表面構造が見られた。


タイプ-1: 半透明〜不透明な放射繊維状の無色-白色を示す微結晶から構成されたビーズ(写真-2a、b)
タイプ-2: 不透明な青色を含む脈状をした白色結晶質ビーズ(写真-3a、b)
タイプ-3: 表面の凹み部や糸穴の内部にマトリックスと異なる青い色素を含む青白色ビーズ(写真-4a、b)

写真-2a、b:
タイプ-1/無色-白色を呈するアラゴナイトのビーズ
写真-3a、b:
タイプ-2/青色を含む脈状白色結晶で覆われたアラゴナイトのビーズ
写真-4a、b:
タイプ-3/着色処理されたアラゴナイトのビーズ、糸穴に分布する着色剤(右)

スポット法による屈折率測定値は1.60から1.65となり、複屈折量の高い傾向を示す。比重は2.75であったが、アラゴナイトの標準値(2.94)より低めである。すべてのビーズは、長波紫外線下では微青白色で、短波紫外線下では不活性を示した。カラー・フィルターでは色に変化はなく、ハンディ・タイプの分光器では特徴的な吸収は認められない。
 EDXRF(蛍光X線分光法)による化学組成分析を行ったところ、タイプ-1:無色〜白色の微結晶ビーズは主成分のCaOが99wt%以上で、ほかに、極微量のPとSrが検出され、高純度のアラゴナイト成分であることが確認できた。タイプ-2:青色を含む白色結晶質のビーズは主成分(Ca)以外に、合計10wt%以下の不純物元素Al、Si、P、S、Cu、Srなどがあった。青色部に0.04wt%のCuOが検出され、青色に起因するものと思われる。脈状の白色結晶部にAl、Si、P、S、Srなどが高い含有量を示し、タイプ-1と比べ、より多くの不純物が含まれたアラゴナイトであることが分かった。次に、タイプ-3の青い色素を含むビーズにも同様にAl、Si、P、S、Cu、Sr元素が検出され(図-1)、この青い色素が分布する部分や糸穴付近から意外なことに数%のCuが検出された。青色は人為的な着色が行われていると思われ、水溶性のCu成分により青色に着色した可能性がある。上述したタイプ-12のビーズと異なり、アラゴナイトの主成分であるCaを除くと、表層に分布する不純物元素の含有量は20wt%に達するビーズが多かった。


図-1:
EDXRFによるタイプ-3の組成分析

 さらに、タイプ-2の青緑色を呈するビーズとタイプ-3の青い色素を含むビーズを選び、その一部を削ってX線粉末回折分析法で確認することにした。検査した結果、タイプ-2の青緑色部がアラゴナイトの回折データによく一致し、タイプ-3の青い色素部にはアラゴナイトの回折ピーク以外に、2θ=46°付近に新たに回折ピークが認められたが、顕著なピークでないため、同定は不能だった。
 今回検査したビーズの中で、タイプ-2のものは、分光光度計によるスペクトル解析とEDXRFによる組成分析から、ペルー産のブルー・アラゴナイトに類似するが、Srの含有量は低めであった。ペルー産のブルー・アラゴナイトは一般的に数%から数十%のSrOを示す。この高含有量のSrを含む純度の低いアラゴナイトは、商業名としてVictorite(ベクトライト)とも呼ばれている。




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