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Research Lab. Report 2006.08.01
天然マスグラバイト
全国宝石学協会 技術研究室:北脇裕士(FGA, CGJ)
 最近、GAAJラボにおいて11ピースのマスグラバイトを鑑別した。以下にこれらの宝石学的特徴と鑑別に必要なラボラトリーの分析技術を紹介する。

写真:
X線粉末回折分析によって確認されたマスグラバイト(GAAJコレクション)。左から1.012ct、0.388ct

 ここ数年来マスグラバイトはGAAJ(全国宝石学協会)ラボのコレクションに加えたい希少宝石の筆頭であった。マスグラバイトは同じく希少宝石のターフェアイトとの識別が困難な宝石として知られており、その鑑別手法を確立する必要があった。幸いにして、今回マスグラバイトとされるサンプルを入手することができ、また多くのターフェアイトを分析して両者を確実に識別できることが明らかとなった。
 マスグラバイトはベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)とアルミニウム(Al)を主成分とする珪酸塩鉱物で、ターフェアイトとは同じ鉱物グループに属している。以前、両者はポリタイプ(層状構造を持つ結晶で単位層の構造は同じでも積層方向に異なった周期の構造型を示すもの)と考えられていたが、これまでの研究においてそれぞれは化学組成も結晶構造も異なる独立種と考えられている。
 マスグラバイトの名称は最初に発見されたオーストラリアのMusgrave地域に因んで付けられた。その後南極大陸、グリーンランドおよびマダガスカルで発見されているが、これらはいずれも宝石品質ではない。1993年に初めて宝石品質のファセットカットされた2ピースのスリランカ産マスグラバイトが報告されている。その後も宝石品質のマスグラバイトを鑑別した複数の報告がなされているが、すべてを合計しても8ピースにしかならず、ほとんどのものは1ct未満である。また、筆者の知る限りにおいて日本国内でマスグラバイトを鑑別した報告はこれまでになかった。
 さて、今回マスグラバイトとして我々が入手したサンプル1ピースとターフェアイトあるいはマスグラバイト希望とされている顧客からの依頼石を加えた総計85ピースのファセットカット石について標準的な宝石学的検査、紫外―可視分光分析およびラマン分光分析を行い、57ピースについてEDXRFによる半定量化学分析を行った。さらに2ピースについてはX線粉末回折分析を行った。その結果、紫外―可視分光分析、ラマン分光分析とEDXRFによる半定量化学分析を組み合わせることによって非破壊で正確にマスグラバイトを鑑別できることが明らかになった。今回、我々の手法で鑑別されたマスグラバイトは総計11ピースでこれらの中には4.5ct(現時点で筆者の知る限り世界最大級)のものも含まれていた。
 
 マスグラバイトとターフェアイトの鑑別に関する技術的な報告は、平成18年7月22日に神戸芸術工科大学で行われた宝石学会(日本)で講演いたしました。その詳細な報告は「平成18年度宝石学会(日本)講演会から」として掲載する予定です。



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