最近、タンザニア産のブルー〜ホワイトのイリデッセンスを示す長石を鑑別する機会を得た。分析の結果、これらは“ペリステライト”であることが分かった。以下にその背景と宝石学的特徴についてご紹介する。
長石の一般化学式はWZ4O8で表され、W=Na、K、CaおよびBa、Z=Si、Alの広範な置換が生じる固溶体である。長石の宝石変種を考えるためには3つの端成分の関係をある程度理解する必要がある。すなわちカリ長石(KAlSi3O8)、アルバイト(NaAlSi3O8)、アノーサイト(CaAl2Si2O8)の3つである。それぞれの端成分を構成するK(カリウム)、Na(ナトリウム)、Ca(カルシウム)の各元素のイオン半径、電価、電気陰性度などの問題から、固溶体の形成のし易さが決まってくる。カリ長石とアルバイトの間はアルカリ長石系列と呼ばれ、高温では均質な固溶体を形成するが、低温になると2相に分離(離溶)する。アルバイトとアノーサイトの間は斜長石系列と呼ばれ、連続固溶体を形成する。しかし、後述するように斜長石系列にも不混和領域が知られており(図-1)、長石変種の光彩効果に寄与している。
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図-1: |
斜長石系列に見られる3つの不混和領域(Deer他1992より)
※Pe:peristerite不混和 |
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ムーンストーンという名称はドイツのウェルナーが18世紀後半に、光沢のある長石の一種をドイツ語でModesteinと呼称したことに始まる。ジェモロジストの座右の書であるウェブスター著の『GEMS』によると、ムーンストーンとは“重要な正長石の宝石で正長石(カリ長石の一種)と斜長石系列の一方の端成分であるアルバイトとの層状組織による光の干渉効果と散乱によって青色〜白色のシィラーを示すもの”とされている。平凡社の新版地学事典においても“月長石(ムーンストーン)は正長石とアルバイトの薄層が交互に配列する結晶を、薄層面に平行にカボション・カットすることにより美しい閃光効果が現われるもの”と定義されている。他の文献においてもムーンストーンの定義はほぼ同様で、独立した鉱物種ではなく、アルカリ長石の宝石変種として認識されている。
さて、前置きが長くなったが、最近ブルー〜ホワイトのイリデッセンスを示す長石を鑑別する機会を得た(写真-1)。
宝石の産地情報に詳しい日独宝石研究所の古屋正司氏によると、タンザニアで新しく産出したもので業者間ではブルー・ムーンストーンと呼ばれているとのことであった。外観はムーンストーンの様であるが、以下のように若干宝石学的特性が異なっていた。すなわち屈折率が1.53〜1.54 で比重は2.62〜2.63でそれぞれムーンストーンよりやや高めである。紫外線下では長波で不活性、短波で赤色蛍光を示した。宝石顕微鏡下ではムーンストーンの特徴であるムカデ状インクルージョンは観察されず、同様な外観を呈するラブラドーライト(本誌2003年6月号参照)に見られるような針状インクルージョンや双晶面が観察された(写真-2、3)。
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写真-1: |
ブルー・ムーンストーンと誤称されている“ペリステライト”
サンプル提供:日独宝石研究所 古屋正司 |
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写真-2: |
“ペリステライト”に見られる針状インクルージョン |
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写真-3: |
蛍“ペリステライト”にしばしば見られる双晶面 |
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蛍光X線分析の結果、アノーサイト成分が10 mol%以下の斜長石であることが分かった(図-2)。
このような化学組成でイリデッセンスを示す長石はギリシャ語のperistera(鳩の意)から転じて“ペリステライト”と呼ばれている。その光の効果が鳩の首の虹色を髣髴させるためである。さらに特徴的なブルーのイリデッセンスを理解するために山口大学理学部の三浦保範博士に依頼して電子顕微鏡による超微細構造の解析を行った(図-3)。
その結果、ペリステライト不混和と呼ばれるほぼ純粋なアルバイト成分とオリゴクレース成分の離溶ラメラが観察され、これらがイリデッセンスの原因であることがわかった。
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図-3: |
電子顕微鏡による観察(三浦2005)。離溶ラメラ組織が明瞭。撮影:山口大学理学部 三浦保範 |
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