新種宝石として話題となっている
高濃度のセシウムを含有する
“ベリル”(コマーシャル・ネームは“ラズベリル”) |
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2003年春、ツーソン・ジェムショーでデビューし、新種宝石として話題となっている高濃度のセシウムを含有する“ベリル”は、“ラズ・ベリル”あるいは“ホットピンク・レッドベリル”などのコマーシャル・ネームで呼ばれています。最近になって、この新種の宝石は鉱物としてもベリル族の新鉱物種として国際鉱物学連合(IMA)に承認され、pezzotaite という名称が認められました。このニュースは一部業界誌でも取り上げられ、この宝石を今後どういう名称で呼ぶべきか多少の混乱が見られるようです。ここでは一度、宝石の名称について考えてみたいと思います。
通常、私共鑑別機関が鑑別書やソーティング・メモに記載しているのは宝石名です。そして、この宝石名のベースは鉱物名にあります(鉱物名の承認については前頁の宮島氏の記述を参照してください)。宝石名は鉱物名をそのまま使用するケースが一般的ですが、中には色や外観あるいは光彩効果等によって宝石名がつけられることがあります。 |
この例として、ルビーやサファイアがあります。コランダムという鉱物の中で赤色がルビーで、その他の色はサファイアという宝石名で呼ばれます。ところが、宝石名にはそれを審査する公的機関は存在しません。伝統的に認知されてきた名称であるとか、既に一般化したものが宝石名として使用されているのが現状です。
また、鑑別書等には記述されませんが、商取引で用いられる名称があります。これはコマーシャル・ネームあるいはトレード・ネームと呼ばれるもので、商品のイメージ・アップを狙ったものです。マンダリン・ガーネットはオレンジ色のスペサルティン・ガーネット(鉱物名であり宝石名でもある)に付けられたコマーシャル・ネームです。コマーシャル・ネームはあくまでもセールス上の名称ですが、まれにタンザナイトのようにプロモーションに成功し、宝石名に昇格する例も見られます。
さて、“ラズベリル”に話を戻しましょう。この名称はラズベリー色 とベリル を組み合わせたコマーシャル・ネームです。したがって、商取引では用いられても鑑別書等には記載されません。分析すると、セシウム含有量が極めて高いことが特異ですがベリル族の鉱物であることは確かなので、これまで全宝協のレポートではピンク“ベリル”として表記してきました。冒頭に記したように最近、新鉱物としてIMAに承認され、またその名称もイタリア研究チーム(Museo Civico di Storia Naturale)が提唱していたDr.Federico Pezzotta氏の名前に因んだpezzotaite が認められたというニュースが流れています。新鉱物として名称が承認されれば鑑別書等にも記載できるのですが、残念ながら今だ正式な論文が公表されていません。したがってpezzotaite という名称を用いるのはもう少し先になりそうです。
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