>>Topへ戻る >>「Research Lab. Report」タイトルリストへ戻る

今月の鑑別室から 2003.9.01
"ファンシー・カラー"ゾイサイト
<"Fancy Colour" Zoisite>
技術研究室  北脇 裕士
最近、写真に示す各色のゾイサイトを検査する機会を得た。
以下にゾイサイトの宝石変種の背景と特徴について概観する。
We recently had an opportunity to test zoisites in various colours shown in the photo.
This report overviews the background and features of zoisite gem varieties.

 ゾイサイトの名称はその研究に貢献したオーストリアの自然科学者Baron von Zoisに因んでいる。和名は灰レン石もしくはユウレン石と呼ばれる。前者の灰は化学組成のカルシウムを表しており、後者のユウは黒いという色を表している。また、双方のレンは簾(すだれ)のことで結晶の長軸に平行な条線に由来する。ゾイサイトはエピドート(緑レン石)グループの鉱物で化学式はCa2Al3Si3O12(OH)で表され、クリノゾイサイトとは多形の関係にある。ゾイサイトは和名のユウレン石のごとく以前は黒っぽい不透明な石しか知られておらず、せいぜいチューライトと呼ばれるノルウェー原産のMnを含むピンク色不透明石やルビー・イン・ゾイサイトの主体である緑色不透明石が知られるのみであった。
 1960年代後半にタンザニアのMerelani Hillsでブルー〜バイオレットの透明変種が発見され、ティファニー社によってタンザナイトと命名され、一躍新宝石として宝石界にデビューした。ちょうど発見から数年後、1970年3月14日から半年間に渡って大阪の千里丘で万国博覧会が開催され、タンザニア館で新宝石タンザナイトが本邦初公開されている。

その後、1990年代に入って緑色の透明種が発見され、"グベリナイト"、"クロム・ゾイサイト"などの名が提唱されたが、いずれも定着せず、現状ではグリーン・ゾイサイトと呼ばれている。タンザナイトという名称は本来コマーシャル・ネームであったが、ティファニー社が命名したということもあってプロモートが成功し、いつしか宝石名として定着した感がある。ところが、もともとブルー〜バイオレットのゾイサイトの宝石変種名であったはずのタンザナイトがディーラー間においては他のカラー・バラエティにも使用されることがあり、イエロー・タンザナイト、ブラウン・タンザナイトと称されることがある。
 さて、写真に示したゾイサイトはタンザナイトとして著名なブルーの変種ではなく、イエロー、グレイッシュ・ピンク、ブルーイッシュ・パープル、ブルーとイエローのバイカラーなどで、試料をご提供いただいたY T STONEの佃氏によるとこれらはすべて未加熱とのことである。これらの屈折率、比重等の特性値はすべて通常のブルー・ゾイサイトと重複している。蛍光X線分析法による組成分析ではブルーからは相当量のバナジウムが検出され、イエロー〜グリーンからは少量のバナジウムとチタンおよび鉄が検出された。また、すべてのサンプルから相当量のストロンチウムが検出された。グレイッシュ・ピンクの石にはハンディ・タイプの分光器においていわゆる"ディディミウム・ライン"が認められた。



Copyright ©2000-2003 Zenhokyo Co., Ltd. All Rights Reserved.