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今月の鑑別室から 2003.7.15
セシウム含有ピンク"ベリル"
<Caesium-containing Pink "Beryl">
技術研究室  北脇 裕士
最近、マダガスカルで発見され話題になっている高濃度のセシウムを含有したピンク"ベリル"について報告する。 
This is a report on pink "beryl", which is containing high concentration of caesium. This material was found in Madagascar and has been in the news lately.


 今年2月のツーソン・ショーでデビューし、話題を集めている宝石に高濃度のセシウム(Cs)を含有したピンク色の"ベリル"がある。この石はその魅力的な色合いから"ラズベリル"のコマーシャル・ネームで呼ばれている。
この新種の宝石は、昨年の11月にマダガスカル中央部のMandrosonoro村近郊のぺグマタイトから発見されている。この地のペグマタイトはもともとフランス人によってトルマリンの鉱床として開発されたが、近年は村人による採掘が行われており、この"ベリル"の発見につながった。この石の特徴として、他の研究者の予備的な分析から高濃度のセシウムの含有が指摘されていたが、当技術研究室の分析でもそれを確認することが出来た。
今回、分析に供したのは10数ピースのカット石で、ほとんどはカボションにカットされており、その中でチューブ・インクルージョンを多数内包するものは明瞭なシャトヤンシーを示していた(PHOTO-1)。
屈折率はスポット法では1.61で、ファセット・カットされたものでは1.603−1.611とベリルとしては異常に高い値を示した。また、比重も3.10前後と極めて高い値を示した。これは後述するように原子量の大きいセシウム(Cs)を高濃度に含有するためと考えられる。

通常光ではピンク黄色(Photo-2左)、異常光では紫色(Photo-2右)の明瞭な二色性を示し、この多色性がピンク・トルマリンとの識別の一助になる。
ハンディ・タイプの分光器では477nmおよび490nmに吸収バンドが認められた。
紫外線下では長波・短波とも不活性であった。
蛍光X線分析法による組成分析(ベリルの主元素であるBeは検出不能)の酸化物による実測値では主元素であるアルミニウム、珪素の他に20〜24wt%もの高濃度のセシウムが検出された。セシウムはベリル鉱物としてはモルガナイトに一般的な不純物元素であるが、その場合は通常4〜5wt%程度である。LA-ICP-MS分析で軽元素の分析を行ったところ、主元素のベリリウムの他に相当量のリチウムの含有が確認できた。
鉱物科学研究所の堀 秀道氏の話によると、このセシウムを高濃度に含有した"ベリル"は、フランスとイタリアの研究チームがそれぞれ独自にIMA(国際鉱物学連合)に新鉱物として片方は国名、もう片方は学者名で登録しているようである。もし、新鉱物として認知されれば、すでに宝石用としてある程度の量が流通した実績のあるものの中から選定されるという極めて特異な事例となる。その日が実際に来るかどうか定かではないが、現時点では「天然ピンク・ベリル」と表記している。



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