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今月の鑑別室から 2003.4.25
ムーンストーンとラブラドーライト
<Moonstone and Labradorite>
技術研究室  北脇 裕士
ある種のラブラドーライトは外観が酷似するためムーンストーンと混同されることがある。以下にその背景と宝石学的特徴についてご紹介する。 
Certain type of labradorite may be confused with moonstone due to their very similar appearances. Its background and gemmological features are introduced this month.

 ムーンストーンという名称はドイツのウェルナーが18世紀後半に、光沢のある長石の一種をドイツ語でModesteinと呼称したことに始まる。ジェモロジストの座右の書であるウェブスター著のGEMSによると、ムーンストーンとは"重要な正長石の宝石で正長石と斜長石系列の一方の端成分である曹長石(アルバイト)との層状組織による光の干渉効果と散乱によって青色〜白色のシィラーを示すもの"とされている。平凡社の新版地学事典においても"月長石(ムーンストーン)は正長石とアルバイトの薄層が交互に配列する結晶を、薄層面に平行にカボション・カットすることにより美しい閃光効果が現われるもの"と定義されている。他の文献においてもムーンストーンの定義はほぼ同様で、独立した鉱物種ではなく、宝石名として認識されている。
 1990年代中頃よりレインボー・ムーンストーンという名称で市場に登場した宝石がある。これは"ムーンストーン"と呼称されているが、鉱物学的には長石グループのラブラドーライトである。したがって、上述のムーンストーンの定義には当てはまらない。GIA発行のGemstone Reference Guideにおいてもレインボー・ムーンストーンは誤称とされている。

 ムーンストーンに独特の青白い閃光は"レイリー散乱"という現象で説明されている。
光の進路上にある大きさを持つ物質(散乱中心)が存在すると、一部の光がまっすぐの進路からそれて我々の目に入ってくる。これが散乱であるが、散乱中心の大きさが可視光の波長よりも小さいと紫色〜青色の波長を強く散乱し、特にレイリー散乱と呼ばれる。空の青色や手に持ったタバコの煙が青紫色なのはこのレイリー散乱による。
 これに対して、ムーンストーンに酷似したラブラドーライトの閃光は緑やオレンジなどの色を含んでいる。これは光の干渉によって説明されている。アルバイトとアノーサイト間の連続固溶体を形成する斜長石系列においてもある組成範囲には不混和領域が存在する。離溶によって形成される層状組織が波曲面状や菱形粒子状になるとムーンストーンのような光の散乱を生じ、平面状になるとラブラドーライトのイリデッセンスである光の干渉を生じると考えられている。
 さて、ムーンストーンとラブラドーライトの識別であるが、ポイントを抑えておけばさほど困難ではない。閃光の色、特性値、拡大検査などが手がかりになり、一般鑑別で十分識別可能である(Table-1参照)。

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