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今月の鑑別室から 2003.4.01
"ブラック"キュービック・ジルコニア
<"Black" Cubic Zirconia >
技術研究室  北脇 裕士
最近、写真に示すブラック・ダイヤモンドを模倣したと思われるキュービック・ジルコニアを鑑別する機会を得た。以下にその背景と宝石学的特徴についてご紹介する。 
We had an opportunity to identify the cubic zirconia,as shown in the photograph, which seemed to imitate a black diamond. The background and gemmological characteristics of this stone are reported here.
黒色不透明石の鑑別は、一般の透明宝石に比べて困難なことが多い。内部特徴の観察が不可能なことが主な要因であるが、単結晶鉱物や岩石あるいは模造石など黒色不透明な素材の範囲が広いことも一因である。
黒色不透明石で最もポピュラーなものは、言うまでもなくブラック・カルセドニーであるが、スピネル、テクタイト、オージャイト、黒色ガラス(模造石)なども鑑別で見かける頻度が高い。また、3〜4年前からブラック・ダイヤモンドもジュエリー素材として定着しており、主に多数個の小粒石がセッティングされたデザインのものを良く見かける。
このブラック・ダイヤモンドには1.ナチュラル・カラー、2.照射処理されたもの、3.高温下で加熱処理されたものがある。1は黒色の針状インクルージョン等が特徴で、2は強い透過光で緑〜青色を呈するのが特徴である。3は質の悪い多結晶の天然ダイヤモンドを加熱によって一部をグラファイト化させ黒色化したもので(1)との識別が困難なケースが多い。

さて、表題の"ブラック"キュービック・ジルコニアであるが、写真からも明らかなように最近流行のブラック・ダイヤモンドを模倣したデザインである。ブラック・ダイヤモンドの鑑別手順として必ず強いファイバー光を用いて透過光の色や内部特徴を観察するが、この石は全く光を通さなかった。また、ファセット・エッジもやや甘く、ダイヤモンドでないことが疑われた。素材の特定のために蛍光X線分光分析を行ったところキュービック・ジルコニアであることが分かった。
キュービック・ジルコニアといえば代表的なダイヤモンド類似石であるが、通常無色透明である。ところがこのような不透明なキュービック・ジルコニアも少量ながら1990年台初頭から生産されている。ブラック以外では白色やピンク色の不透明なキュービック・ジルコニアもある。ブラック・キュービック・ジルコニアの化学組成は無色透明のものとほとんど同じであり、着色に関与すると考えられる元素は含まれていない。資料によると、ブラック・カラーは着色中心によるもので、合成時に還元雰囲気で製造するか、無色透明のものを還元雰囲気において1400℃以上で加熱することで得られるらしい。また、逆にブラック・カラーを酸化雰囲気で加熱すると無色透明に変化する。したがって、ブラック・キュービック・ジルコニアの製品をサイズ直しなどで加熱を要する際は注意が必要であろう。



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