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今月の鑑別室から 2003.2.25
“検査結果報告書”における最近の動向
技術研究室  北脇 裕士
 検査結果報告書のご依頼をいただいている最近の検査内容や分析結果の動向について ご紹介する。

 全宝協では長年にわたる技術研究をベースに、一般鑑別では判断が困難な加熱エンハンスメントの看破、産地同定などのニーズに応えるべく検査結果報告書を発行している。今年でちょうど10年目を迎えるが、年とともにご依頼いただく検査内容にも若干の変化が感じられる。以下に宝石種別に、最近の分析結果の動向についてご紹介する。

◆ブルー・サファイア
 ブルー・サファイアは検査結果報告書のご依頼件数が最も多いアイテムである。加熱・未加熱と産地鑑別が分析目的である。報告書の作成を始めた10年前では未加熱のものはスリランカ産がほとんどであった。近年では圧倒的にマダガスカル産が多く、逆にスリランカ産は稀に見かける程度になっている。ミャンマー産は以前から少なかったが、最近も時々見かける程度である。以前はカシミール産希望としてご依頼をいただく中に、カシミールではないケースがしばしばあったが、最近、カシミール希望は少なくなった。タイ産はかつてはほとんど見かけることはなかったが、最近はカンチャナブリ産のものを時々見かけるようになった。
ブルー・サファイアにおける最も大きな変化は、ここ数年顕著なマダガスカル産の急増である。単に数が増えただけでなく、マダガスカル産には他の産地と酷似したものが見られる。例えば、未加熱のカシミールに、外観、内部特徴、さらには可視分光スペクトルまでも酷似したいわゆるカシミール・タッチのもの(PHOTO-2)や、スリランカ産(PHOTO-3)、ミャンマー産に酷似したものもあり、産地鑑別を困難にしている。

◆ルビー
 ルビーはブルー・サファイアについでご依頼の多いアイテムである。以前からミャンマーのモゴク産の未加熱ルビーを時々見かけたが、最近はやや減少しているかも知れない。ここ数年はミャンマーでもモンスーのものを見かけることが多くなったが、この産地のものは加熱してある例が多い。

また、近年は、マダガスカルでルビーが発見されており(PHOTO-4,5)、この地のルビーをしばしば見かける。マダガスカル産のルビーは明瞭な産地特徴を有しているが、シルク・インクルージョンが見られても、加熱されているケースがあるので、加熱・未加熱の判断がむずかしい。スリランカ産は以前から少なく、ベトナム産は一時的に見られたに過ぎない。タイ産は以前から時々見かけるが、加熱・未加熱の判断が困難である。

◆“パライバ”・トルマリン
トルマリン中で最も人気の高いものの一つにCu(銅)イオンで着色したブルー〜グリーン系の通称“パライバ”トルマリンがある。本来、ブラジルのパライバ州で発見されたものであるが、のちに同国のリオグランデ・ド・ノルテ州からも発見され、両州産とも一般に“パライバ”・トルマリンと呼ばれている。一方、2〜3年前にアフリカのナミビアからも(銅)イオンで着色したブルー系のトルマリンが発見されて話題を呼んでいる(PHOTO-6)。現状ではナイジェリア産のものは淡い色調のものが多く、またナイジェリア産を“パライバ”と称することはない。

◆エメラルド
 エメラルドはコロンビアの産地鑑別と、樹脂およびオイル含浸の有無の検査依頼が対象となる。コロンビア産希望に誤りがある例はほとんどないが、一部のブラジル産はコロンビア産との識別が困難な場合がある。未処理としてお持ちになる商品に樹脂が含浸されているケースは稀であるが、しばしばオイルの含浸が認められる(PHOTO-7)。



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