本来無色であるダイヤモンドは、その内部に不純物元素(主として窒素)や塑性変形に由来する格子欠陥が含まれていると、それにより特定の波長の光(スペクトル)が吸収され、その余色の色に着色することになる。この欠陥部分は、必ずしも均等にダイヤモンド内部に分布している訳ではないけれども、ダイヤモンド中を通過する光の経路が長ければ長いほど、光がこれに遭遇する機会が多くなり、より吸収が起きることになる。逆に短かければそれだけこの機会が減り吸収が少なくなることになる。即ちダイヤモンド中を通過する光の経路に直接関連するカット形状、或いはプロポーションによりその示す色は変化することになる。色の濃い石は深さを薄くカットしその色の見え方を軽減したり、逆にピンクなどのファンシー・カラーでは厚めにカットして色を濃く見せたりする事が行われているのは、端的なこの例であろう。
この経路の長さと吸収量の関係は、ランバート・ベールの法則が示すとおり指数関係にある。入射光の強度をIO,透過光の強度をT,透過距離をLとすればI=IOexp(‐KL)で求める事ができる。従って、石のサイズやプロポーションの差による色の変化の度合いは、石の吸収係数(数式のK)や光の経路長さLが分かればある程度予測できることになる。これらについても、報告する事としたい。
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以上のことから、結論として研磨済みダイヤモンドのカラー・グレードは、その石のイントリンシックな色とエクストリンシックなカット形状の合成効果であり、リ・カットによりカット形状が変化すれば、当然のこととしてそのカラー・グレードは変化することになる。生物の行動様式が、先天的なDNAによるものと、後天的な経験や教育による刷り込みに由来するものの合成であるのと軌を一にしているのではないかと思われる。
◎発表内容の詳細は、宝石情報誌「GEMMOLOGY」に掲載いたします。 |