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スピネル双晶した天然ダイヤモンドの凹入角およびsalient corner効果(要旨)
全国宝石学協会 アヒマデイジヤン・アブドレイム
京都大学理学研究科 北村 雅夫

 天然ダイヤモンドは主に{111}面を中心とした八面体の結晶として産する。この単結晶は、多くの場合八面体の形態を保って成長する。全ての{111}面の成長速度が等価であり、成長速度に差異が生じないため、結晶の成長形がほとんど変化しないので、成長環境の変動を推定することができない。これに対して双晶の場合は、{111}面には双晶境界に接する面と接しない面があり、これらの面の成長速度が異なるため、成長形も多様化する。したがって、スピネル双晶した天然ダイヤモンドを用い、天然ダイヤモンドの成長環境の変動を見積もる事にした。
 スピネル双晶したダイヤモンドは、三角平板状の結晶として産する。従来、この平板状の形態は二個体単結晶が互いに接触して両個体の間に出来る凹入角部の優先成長によるものと強調され、凸出角での優先成長による成長形の変化を実際に観察した例はありません。
本研究では、凸出角(salient corner)での優先成長をsalient corner効果と定義し、南アフリカ産のスピネル双晶した天然ダイヤモンドの外形と内部組織を観察することにより、凹入角効果とsalient corner効果を確かめることも本研究の目的の一つとした。
 外形の観察からスピネル双晶の形態は三角平板状の成長形を示すが、凹入角の形態を四つのタイプに分類し、双晶の平板性を求め、それと各面の法線成長速度比との関係を導いた結果は、明らかに凹入角での優先成長だけでなく、salient cornerでの優先成長が生じることを示している。

 双晶形態の違いを説明するには、結晶の{110}切断面を走査型電子顕微鏡の陰極線ルミネセンス(CL)でその累帯構造を観察した。
 各結晶の内部組織に成長段階を示す整合的な累帯と溶解作用を示す不整合的な累帯構造が観察され、この不整合累帯により各結晶の累帯構造は異なる領域に分けられる。そのうち中心領域の観察によって、成長初期から双晶が形成されていた事が分かった。その後、双晶が成長するにつれ平板性が増し、凹入角部が異なる形態を示す。
 成長段階を示す成長バンドの幅を測定し、双晶成長段階における各面の法線成長速度の比を見積もった結果、凹入角部にある二つの{111}面の法線成長速度とsalient cornerにある二つの{111}面の法線成長速度との両者間で成長速度比に有意な差が見られ、成長と共に各面の成長速度比は常に変動している事が分かった。そして成長形の変化及び平板性は、凹入角とsalient cornerでの優先成長によって形成されたことが確かめられた。
 また、この累体構造の成長バンドから成長速度の比を測定することによって、その成長条件を定性的に推定することができた。各結晶の成長過程において過飽和度が変動している事が明らかとなった。

◎発表内容の詳細は、宝石情報誌「GEMMOLOGY」に掲載いたします。


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