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今月の鑑別室から 2002.08.25
隕石中のペリドート
<Peridots in Meteorites>
技術研究室  北脇 裕士
 パラサイトと呼ばれる石鉄隕石から宝石用にカットされたペリドートを鑑別する機会を得た。以下にその背景と宝石学的特徴について報告する。
We had an opportunity to identify peridots cut for jewellery out of stony-iron meteorites called pallasite. The background and its gemmological properties are reported here. 


ペリドートは宝石名で、鉱物学的にはオリビンと呼ばれている。ペリドートの産地はミャンマー、アリゾナ、パキスタン、中国などであるが、歴史的には紅海のザバルガド(セント・ジョンズ)島が知られている。
 今回、検査する機会を得たのはパラサイト(Pallasite)と呼ばれる石鉄隕石からカットされた最大1.5ct、ほとんどは1ct未満の100ピース余りの地球外物質のペリドート(PHOTO-1)である。

 1772年、ドイツ人の博物学者であるパラスはクラスノヤルスクで発見された重さ数100kgにも及ぶ巨大な金属塊をペテルブルクに持ち帰って調べた。原住民は古くからこの石の存在を知っていたが、1749年にメドウェデフにより再発見されるまで、中央の学者達はその存在に気がついていなかった。パラスはメドウェデフからこの不思議な石の話を聞いて興味をも
ち、調査にやってきたらしい。原住民たちは、この石を天から飛来した聖物とみなしていたが、パラスは地球外物質とは考えなかった。ところが、1794年、パラスの石を研究したドイツの学者が隕石であると発表した。当初、隕石説は学会にまったく受け入れられなかったが、その後実際の隕石落下が目撃されるようになると、パラスの石も晴れて隕石と認められるようになった。

 パラサイト(Pallasite)はもちろんパラスに因んで命名されたもので、鉄―ニッケルの金属基質に粗粒のオリビン(ペリドート)を含むものをいう。蛇足だが寄生虫を意味するパラサイト(parasite)とはスペルが異なる。
パラサイトの成因は次のように考えられている。太陽系の形成時に小惑星同士が衝突しながら大きな惑星へと成長する。ある程度大きくなった小惑星は膨大な衝突エネルギーで融解し、金属核(鉄―ニッケル)と珪酸塩層(オリビンなど)の二層に分離する。このような小惑星がまた他の小惑星などと衝突して分解する。この分解した二層の境界付近の隕石がパラサイトとなる。全隕石中に占めるパラサイトの割合は2%にも満たない。
今回検査したパラサイトからカットされたペリドートの物理特性はすべて、一般的なペリドートに一致した。蛍光X線による組成分析では、通常の宝石質ペリドートよりも若干鉄に富み、微量のCrが検出された。また、すべてのサンプルにPHOTO-2に示すほぼ90°に交差する針状インクルージョンが観察され、一部に鉄―ニッケルの金属粒(PHOTO-3)が見られた。これらの内包物は一般的なペリドートには見られない隕石起源の特徴と思われる。



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