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今月の鑑別室から 2002.07.25
KM処理の現状
<Update of KM treatment>
技術研究室  北脇 裕士
 KM処理が日本の宝石市場に登場して2年以上が経過した。この処理の特徴と現状について報告する。
More than two years have passed since KM treatment appeared on the Japanese gem market.
The features and its present state are reported here.
 2000年の6月頃から新しいレーザー技術を用いたダイヤモンドのクラリティ処理が日本の宝石市場で見られるようになった。これはヘブライ語で「特別なドリル」を意味するKiduah Meyuhadの頭文字をとって「KM処理」と呼ばれている。
従来のレーザー・ドリリングではレーザーの熱によってダイヤモンドのダーク・インクルージョンに達する穴を開ける。その結果生じたドリル・ホール(チューブ・インクルージョンのような細い円筒形の穴)はインクルージョンを漂白あるいは除去するための強酸液(硫酸や王水など)の通路となり、またダイヤモンドが蒸発する際に生じた気体を排出する役目も果たしている。一方、KM処理ではこのようなドリル・ホールは形成されない。対象となる異物(美観を損ねるダーク・インクルージョンや黒っぽいフェザーなど)にひとつあるいは複数のレーザー・ビームがフォーカスされ、インクルージョンの膨張を誘発するのに十分な熱が発生する。その結果、自然に発生した亀裂やクリベージに極めて近い外観をもつ人工的なフェザーが生じ、従来のドリル・ホールと同様の役割を果たす事になる。
KM処理は黒色のインクルージョンを漂白することにより、ダイヤモンド業界での一般的な評価は良くなるが、もともと存在しないフェザーを発生させるため、クラリティ・グレードの改善は期待できない。これまでの実務においてKM処理が施されている割合がもっとも高いのはSIクラスである。

KM処理で生じたフェザーにはいくつかのタイプが知られているが、最近よく見かけるものは網目状(Photo-1)と噴水型Photo-2a)のタイプである。前者は黒色のフェザーを、後者は黒色の結晶インクルージョンをターゲットにしたものが多い。
網目状のタイプはターゲットからテーブル面に対してまっすぐに伸びてくるのが普通で、
筋状の黒色残留物が平行して多数見られる例が多い。一方、噴水型のタイプはフェザーの中央部に沿ってドット状の黒色残留物が見られるケースが多く(Photo-4)、まれに虫食い穴のような不自然で不規則な溝が見られる(Photo-5)。噴水型のフェザーは結晶の八面対面に平行なクリベージに対応する。したがってテーブル面(通常六面体面に平行)には斜交して見られることが多い。
 KM処理の看破はルーペや顕微鏡下での視覚的な検査によるため、鑑別技術者の技量に負うところが大きい。ラボラトリーの技術としては微分干渉顕微鏡(Photo-6)を用いての誘発されたフェザー開口部の表面研磨状態の観察がある。通常、KM処理は研磨後に行われるため誘発されたフェザーの開口部はポリッシュの影響を受けないが(Photo-2b)、自然発生のクリベージ(Photo-3a)はポリッシング・ラインに"ひきずり"を与える(Photo-3b)。ただし、視覚的には明らかにKM処理が施されるものにもまれに"ひきずり"が見られるケースがあり、慎重な判断が必要となる。

 2000年の12月以降、宝石鑑別団体協議会(AGL)ではKM処理の表記を下記のように統一しています。

【グレーディング・レポート】および【鑑別書】
    備考:内部レーザー・プロセスの明らかな特徴を認む
【ソーティング・メモ】
    備考:KMプロセス


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