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今月の鑑別室から 2002.06.25
樹脂含浸処理が施された天然クォーツァイト
<Resin-impregnated Natural Quartzite>
技術研究室  北脇 裕士
 最近、グリーンに染色され、樹脂含浸が施された天然クォーツァイトを検査する機会があった。以下にその背景と特徴について報告する。
We had an opportunity to test a natural quartzite which had been dyed green and been impregnated with resin. The background and properties of the stone is reported here.
 
ジェイダイトには多くの類似石があり、鑑別の勉強を始めたばかりの初級者にとっては
緑色半透明石はひとつのハードルになるアイテムではないだろうか。屈折率測定、紫外線蛍光、分光検査、カラー・フィルターの反応などひとつひとつの検査を正確に行って正解を見つける作業が必要となる。染色されたクォーツァイトも代表的な類似石のひとつで、すべての検査をきちんと行えばさほど鑑別が困難な石ではない。しかし、実際の取引や商談などでは外観とルーペのみでの検査となり、思わぬ失敗を招くことになりかねない。
 ジェイダイトの鑑別をさらに困難なものにしたのが、1990年代に入って出現した樹脂含浸処理である。ジェイダイトの原石はしばしば、外観の美しさを低下させる要因となる褐色の酸化鉄が粒界やクラックに浸透している。これらを強酸中で漂白し、無色の樹脂を含浸することで、その透明度を改善する。
これが樹脂含浸処理で通称Bジェードと呼ばれている。この処理の確実な看破には赤外分光分析などのラボラトリーの技術が必要で、鑑別機関にとっても分析装置の配備の重要性を知らしめる事となった。1990年代半ばになると、無色の樹脂ではなく有色(緑色やラベンダー色)の樹脂を含浸したジェイダイトが見られるようになり、Cジェードと通称されている。
 さて、表題に記した石であるが、これは"本物のヒスイかどうか見てほしい"というご依頼でお預かりした商品である(PHOTO-1)。一見したところは天然ジェイダイトのリングであるが、ジェイダイトを見慣れたものにとってはなんとなくあやしいという印象をもつ。拡大検査においてジェイダイトに特徴的な繊維状の組織がなく、クォーツァイトを思わせる粒状組織が認められた。分光検査においても437.5nmのジェイダイト・ライン(鉄に起因する)が検出されず、赤色部(640nm中心)に染料による吸収が見られた。屈折率は1.54で、カラー・フィルター下で不活性であった。この時点で染色されたクォーツァイトと結論できたが、拡大下で見られた表層のクラックと長波紫外線下でのほのかな青白い蛍光が樹脂含浸処理を思わせたため、赤外分光分析を行った。
その結果、有色の樹脂を含浸処理した天然クォーツァイトであることが確実となった。


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