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今月の鑑別室から 2002.05.25
カメレオン・ダイヤモンド
<Chameleon Diamonds>
技術研究室  北脇 裕士
 カメレオン・ダイヤモンドと呼ばれる光や熱の刺激で一時的な変色を示す特異なダイヤモンドがある。以下にその背景と特徴について報告する。
Chameleon diamonds are stones of unique nature showing temporary colour-change effect when stimulated with light or heat. The background and their characteristics are reported here.

 1943年に発見され、カットされた2.24ctのダイヤモンドは光をあてたときにブロンズ色から緑色に変化する性質があり、C.A.Kiger社によってカメレオン・ダイヤモンドと名付けられた。本来、カメレオン・ダイヤモンドはこのように固有のダイヤモンドの名称であったが、以降、しだいに変色を示すダイヤモンド全般に使用されるようになった。
しかし、残念なことにカメレオンあるいはカメレオン・タイプという用語は科学的に明確な定義がなく、これまでさまざまな変色のタイプに対してあいまいに使用されてきたようである。科学的には、あるコンディション(例えば光やX線をあてる)で一時的に変色する現象は “transichromatism”といい、変色の原因が光によるものは“photochromism”、熱によるものは“thermochromism”と呼ばれる。
 さて、現在一般に認知されている“カメレオン・ダイヤモンド”は、『ある期間(例えば一晩中)暗所に保管した場合や緩やかな加熱(アルコール・ランプなどで200℃〜300℃程度)によって一時的(数秒から数分)に変色するダイヤモンド』と定義できよう。たいていのカメレオン・ダイヤモンドは通常時グレイッシュ・グリーンであったものが明るいイエローに変化するが、希なケースとして逆に緑味が強くなる例も知られている。
紫外―可視領域の分光分析では415nm(N3センタ)と425nm(水素に関連)に吸収が見られ、長波紫外線下では強い黄色蛍光を発し、同系色の燐光を示すのが特徴である。
色変化のメカニズムについては未解明な部分が多いが、カメレオン・ダイヤモンドは水素含有率の高いいわゆるH-richタイプであることが分かっており、水素に関連した何らかの欠陥が起因した“photochromism”および “thermochromism”であろう。
PHOTO-12は最近、グレーディングのご依頼を受けた1.076ctのカメレオン・ダイヤモンドである。通常時はFancy Dark Grayish Greenであったものが(PHOTO-1)、アルコール・ランプでの緩やかな加熱により、Fancy Grayish Yellowに変化した(PHOTO-2)。この色変化を10秒〜20秒ごとにマルチ分光測色計で測定してみると、変化した色はほぼ1.5〜2分で復元することが分かった。
また、一晩中暗所に保管して取り出した場合にも同様にFancy Grayish Yellowへの色変化が見られ、1.5〜2分でFancy Dark Grayish Greenに復元した。

“カメレオン・ダイヤモンド”はトレード・ネームです。鑑別結果は「天然ダイヤモンド」と表記いたします。また、特殊検査の結果“カメレオン・ダイヤモンド”の性質が認められた場合、レポートの備考に「暗所に保管あるいは穏やかな加熱により一時的に色調が変化することから、カメレオン・ダイヤモンドと呼ばれています。」のコメントを記載いたします。


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