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今月の鑑別室から 2002.02.22
人工的に付加された偽アステリズム
<Artificially induced pseudo-asterism>
技術研究室  北脇 裕士
最近、新しいタイプの人工的な偽アステリズムが付加された天然石を検査する機会を得た。これらのアステリズムは石の表面につけられた数組の平行なスクラッチによって生み出されたものである。
We had an opportunity to test a few natural stones on which a new type of pseudo-asterism has been artificially induced. These asterism effects are created by scratching the stone surface parallel in certain directions.

アステリズムとは一般にいう“スター効果”のことで、ラテン語の“星”を意味する
asteroに由来し、星彩効果とも呼ばれる。ある種の宝石中に針状などのインクルージョンが結晶学的な方位をもって定向配列するものを、正しいオリエンテーションで山高のカボション・カットにした際に点光源により4条あるいは6条(まれに12条)の光を発する効果をいう。反射光線によりこの効果を示す場合をエピアステリズムといい、透過光線によるものをダイアステリズムという。ほとんどの石は反射光線によってアステリズムを示すが、ローズ・クォーツは透過光でこの効果を示す。このため、古くはローズ・クォーツがサファイアの底部に張り合わされ偽スター石の製作に利用されていた。
ルビーやサファイアはアステリズムを示す代表的な石である。これらのコランダム類は結晶成長後に過剰に結晶構造中に拡散していたチタン成分が酸素と結びついて離溶し、シルク状のルチル(TiO2)インクルージョンとして各柱面(第二六方柱)に平行に三方向に配列することによって6条のアステリズムが生み出される。
もし、鉄分も過剰に拡散しているとヘマタイト(Fe2O3)等の針状鉱物が別の柱面(第一六方柱)に平行に定向配列し、新たな6条のアステリズムが生み出され、都合12条のアステリズムが生み出されることになる。
さて、このような天然に出現するアステリズムを人工的に模倣する方法がいくつかある。
一つは合成コランダムのアステリズムのように過剰なチタン成分をドープして結晶を合成し、再度加熱・冷却して、微細なルチルを析出させる方法である。同様な原理でチタンを表面拡散してアステリズムを得ることもできる。他の簡単な手法としてはカボション・カットした底面に条線を刻む方法や、先述のローズ・クォーツを張り合わせる方法などがある。
今回、ご紹介するのはPhoto-1,2に示すようにカボション・カットされた各種天然宝石類(実例が報告されているものとしてシンハライト、クリソベリル、ガーネット、キャシテライト、トルマリンなど)の表面に数組の平行なスクラッチを付ける事によってアステリズムを付加したものである。このような手法は19世紀の中葉より金属板に施されてきたといわれているが、天然石にはこれまでに見られなかった。この偽アステリズムは拡大検査で容易に看破できるが、見た目にも非対称性の条線、カーブした条線、二重になっていたり、石の片側に偏った条線など不自然に感じられる要素があれば鑑別は容易である。
※Photo-1,2とも天然スター・ルチルということで鑑別に持ち込まれた。


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