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今月の鑑別室から 2002.01.23
銅を含有したナイジェリア産トルマリン
<Copper-containing tourmaline from Nigeria>
技術研究室  北脇 裕士
 銅を含有した“パライバ・タイプ”のトルマリンがナイジェリアで発見され、注目されている。以下にトルマリンに含有される微量元素について考察する。
“Paraiba-type” tourmalines that contain copper have been found in Nigeria and become a topic. The trace elements contained in tourmaline are studied below.

トルマリンはXYZ(BO)SiO18(OH,O)(OH,F)の一般式で表される複雑な化学組成を有する珪酸塩鉱物である。X,Y,Zは以下のような各種元素で置換されうる。それゆえ多くの端成分が存在し(現在一般に認知されているのは 13種で、うち1種は未命名)、これらが複雑に固溶体を形成する。

X=Na,Ca,□,Mg,Fe2+,Mn2+,K
Y=Fe2+,Mg,Al,Li,Fe3+,Mn2+,Mn3+,Cr3+,Ti4+,Cu,Zn,REE
Z=Al,Fe3+,Fe2+,Cr3+,V3+,Mn3+,Ti3+,Ti4+

したがって、厳密にトルマリンの鉱物学的分類を行うためには蛍光X線分光法などの組成分析が必要である。しかし、宝石学では色や外観によって変種分類されるのが普通で、鑑別書上では“天然○○トルマリン”と色名を冠して表記されることが多い。また、商取引などではルベライトやショールなどのように伝統的な名称も使用されている。

宝石変種のトルマリン中で最も人気の高いものの一つにCu(銅)イオンで着色したブルー〜グリーン系があり、“パライバ・トルマリン”と通称されている。周知の通り、1980年代の終わり頃ブラジルのパライバ州で発見されたものである。その後、同州北部に隣接したリオグランデ・ド・ノルテ州からも同様にCuイオンで着色したトルマリンが見つかっている。
これらは鉱物学的にはエルバイトに属する主化学組成を有しているが、 Cuが主たる色の原因になっており、Mn,Biを同時に含有するのが特徴である。このような微量元素の組み合わせを有するトルマリンはこれまでブラジル産しか知られておらず、いわば“パライバ・トルマリン”の証でもあった。ところが驚いたことに昨年の夏頃からナイジェリアからも同様の色調と含有元素の特徴を有するトルマリンが発見され、注目されている(Photo-1)。パライバ様のナイジェリア産トルマリンはナイジェリア西部、Ilorin近郊のEdoukou 鉱山で発見されており、加熱前は紫色系であったもの(Photo-2)が加熱によりアクワマリンのような色になるらしい。
 トルマリンに含有される微量元素は変種や成長時の地質環境に関連がある。例えばユーバイト〜ドラバイトに属するクロム・トルマリンは接触交代鉱床であり、Cr,Srを特徴的に含有し、エルバイトに属する通常のグリーン〜ブルー・トルマリンはペグマタイト起源でZn ,Mn,Pbなどを含有する。Biはピンク系のエルバイトに含有されることが多く、これも花崗岩質ペグマタイトに由来すると考えられている。ナイジェリアでもIlorin近郊のOgbomosho地区から産するピンク系トルマリンには相当量のBiが含有されている。
 さて、新しく発見されたナイジェリア産のトルマリンであるが、これまで当技術研究室で分析した15pcすべてについてCu,MnおよびBiが検出されている。したがってこの点では従来の“パライバ・トルマリン”と同様であるが、他の微量元素の含有量や組み合わせおよび分光スペクトルの特徴にいくつか明瞭な相違も見つかっており、詳細な分析により両者の識別は可能であると思われる。

※一般の鑑別書では“パライバ”、“ナイジェリア”などの産地名は記載されません。
産地鑑別をご希望の際は検査結果報告書をご利用ください。
※本報告は、宝石情報誌GEMMOLOGY3月号に掲載いたします。


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