>>Topへ戻る >>「Research Lab. Report」タイトルリストへ戻る

今月の鑑別室から 2002.01.07
天然フルオライト
<Natural Fluorite>
技術研究室  北脇 裕士
 フルオライトは蛍光性を示す石として良く知られている。今回はフルオライトの特性と魅力的なブルーの変種をご紹介する。
Fluorite is well known for its fluorescence.We introduce the properties of fluorite and its attractive blue variety this time.


 フルオライト(fluorite)は融剤として物を容易に溶かすため、ラテン語のfluere(流れる)から命名されている。また、宝石学においても重要な“蛍光(fluorescence)”は、この鉱物に由来した用語である。
19世紀の中頃、ジョージ・ストークス博士はフルオライトに太陽光をあてる実験を行っていた。この実験は暗い部屋に窓の扉に開けた小さな穴から太陽光を導いて行われた。細く絞られた太陽光が無色透明のフルオライトの結晶にあたると、明るい澄んだブルーの発光が見られた。同様の現象はこれまで他の鉱物にも見られたことがあったが、彼はこの発光現象をフルオライトに因んでfluorescenceと呼ぶことにした。フルオライトは宝石学においてもさまざまな色や強度の紫外線蛍光を発することで知られている。しかし、産地や個体差があり、中にはまったく蛍光を発しないものもある。ストークス博士が実験に用いたフルオライトがもし蛍光性の強いEnglandのAlston Moor産のものでなければfluorescenceという用語は生まれなかったかもしれない。また、宝石学ではあまり重要とされないが、フルオライトには加熱によって発光する熱ルミネッセンスの性質もある。
フルオライトの物理的性質で忘れてはならないものに八面体面に平行な“へき開”がある。
フルオライトは化学式がCaFで表され、Fig.-1に示すような結晶構造をもっている。たいていは六面体の結晶形態を示すが、国内産には八面体も多いといわれる。よく鉱物標本で売られている八面体の結晶はこのへき開の性質を利用して六面体の結晶原石を整形加工したものがあるので注意したい。

 さて、前置きが長くなりすぎたがPhoto-1はここ2〜3年しばしば見かけるようになったブラジル産のブルー・フルオライトである。人工光下では赤っぽく見えるが、この色変化は演色性の相違によるものなのでアレキサンドライト・タイプとはしていない。着色原因についてはY(イットリウム)やSm(サマリウム)などに関連する着色中心といわれているが、これまでに我々が行った分析では微量のYb(イッテルビウム)のみが検出されている。 

このブルー・フルオライトの特性は以下の通り。
屈折率: 1.432
比重: 3.18
分光特性: 吸収特性なし
S.W: 変化なし
 
 フルオライトには豊富なカラー・バリエーションがあり、ファセット・カット石は低い屈折率にもかかわらず、高い輝きを示す。しかし、低い硬度(モース硬度4)とへき開のため耐久性には難があり、取り扱いには注意が必要である。


Copyright ©2000-2002 Zenhokyo Co., Ltd. All Rights Reserved.