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今月の鑑別室から 2001.7.23
3543cm-1吸収を示す天然アメシスト
技術研究室  北脇 裕士
ブラジルのRondonia州Caxarai鉱山産の天然アメシストを分析したところ、合成アメシストの鑑別特徴とされていた3543cm-1の赤外吸収特性を示すものがあることが分かった。以下にその経緯とアメシスト鑑別の現状について報告する。

合成アメシストが商業ベースで供給され始めた1970年以来、その鑑別はジェモロジストにとって難題のひとつとなった。近年では合成アメシストの過剰生産に加え、これらが天然アメシストの原産地において混入されるなど、アメシスト鑑別は世界的な関心ごととなっている。
内包物を有するアメシストはルーペや顕微鏡を用いて識別することが可能である。しかし、現在市場に流通しているファセット・カットされたアメシストは大半がフローレスからほぼフローレスで識別の手がかりとなる結晶や液体インクルージョンを内包していない。したがって、アメシスト鑑別は普遍的に存在するカラー・ゾーニング(色帯)の観察とブラジル双晶の検出がベースとなり、加えて鑑別ラボにおいてはFTIRなどによる赤外分光分析が広く用いられている(詳しくは“小宇宙を科学する
II 水晶の世界”参照)。

さて、最近ファセット・カットされたアメシストを検査したところ、カラー・ゾーニングはやや特異なものの天然起源を思わせたが、ブラジル双晶が見られず、また赤外分光分析において合成の特徴と考えられている3543cm-1の吸収が検出された。このような矛盾点が見られたためご依頼者に相談したところ、このアメシストはブラジルの新しい産地のもので間違いなく天然であると告げられた。採掘された場所はRondonia州のCaxarai鉱山で1999年9月に発見されたばかりであり、市場にはまだほとんど供給されていないとのことであった。また、同産地の原石を調べる機会を与えられた。
写真-1がCaxarai鉱山産の結晶原石でおよそ120gである。その結晶形態および包有される液体インクルージョンなどから天然起源は疑いようがない。実際、ファセット・カットに供されるものはこれより内包物が少なくクリーンなものらしい。この石のカラー・ゾーニングと双晶の有無を調べるために結晶のc軸に対して平行と垂直方向にスライスした。写真-2はc軸に平行にスライスしたものである。結晶の先端付近が濃く着色しているのがよく分かる。写真-3はc軸に垂直にスライスしたものを菱面体面に平行に観察したものである。
非常にシャープなカラー・ゾーニングはz面の領域である。写真-4はc軸に垂直にスライスしたものを光軸方向から観察したもので、写真―5は同じものをクロス・ニコル下で観察したものである。写真-4で紫色のカラー・ゾーニングが見られる領域は写真-5で青紫の一様な干渉色を示しており(ブラジル双晶していない)、zセクターに対応する。
FTIR(島津社製FTIR8300)にて赤外分光分析を行ったところ(分解能4cm-1)、濃色のzセクターのみに3543cm-1吸収が認められた。このピークの原因は不明ではあるものの研究者の間では合成アメシストの鑑別特徴と考えられている。

今回の分析において、ブラジルのRondonia州Caxarai鉱山産の天然アメシストは以下の重要な2つの特徴を有することが明らかとなった。
1. 他の一般的な産地のものと異なり、zセクターがrセクターよりも濃色で色もよく、カラー・ゾーニングも特異できわめてシャープである。
2. zセクターの赤外分光分析では合成の特徴と考えられている3543cm-1の吸収が認められる。
したがって、この産地のアメシストが発色のよいzセクターのみカットされた場合、その特異なカラー・ゾーニングとブラジル双晶の欠如および赤外分光から誤って合成と判断される可能性を秘めている。特に水晶の結晶形態や双晶に関する知識の乏しいジェモロジストが操作の簡便な赤外分光分析に必要以上に依存して鑑別を行うケースは極めて危険といえよう。


謝辞 
(有)伊藤商事の伊藤 彰氏には本研究に用いたサンプルをご提供いただいた。また、(株)ミユキの亀山力哉氏にはサンプルの加工をしていただいた。ここに記して深謝いたします。


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