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今月の鑑別室から 2001.7.1
天然ガスペアイト
技術研究室  北脇 裕士
 ガスペアイトと呼ばれる黄緑色の魅力的な宝石素材がある。以下にその宝石学的特徴と類縁石および類似石について紹介する。

 ガスペアイトはに示すようにカルサイト・グループに属するNi(ニッケル)を主成分とする炭酸塩鉱物である。産地であるカナダのGaspe半島に因んで1966年に命名された。宝石用に供される素材はカナダの他、オーストラリアからも産しており、“Allura"という名称でも取引されている。単結晶で産することは稀で、通常は塊状で産出する。
宝石用にカットされるガスペアイト(写真-1)は屈折率が1.61〜1.83である(屈折計上では1.61付近に不鮮明なシャドー・エッジが見られ、それ以上がやや暗く見える)。比重は3.2〜3.7程度で理論上の比重値4.35に比べてかなり低い。これは同じくカルサイト・グループのマグネサイト(比重値:3.0)と固溶体を形成しているためと考えられる。電子顕微鏡による観察および組成分析を行ったところ、ガスペアイト成分に富む結晶とマグネサイト成分にやや富む結晶の数μmオーダーの集合体であることが分かった。

 “レモン・クリソプレーズ”と一般に呼ばれている石(写真-2)はX線粉末回折分析および組成分析の結果、クォーツとマグネサイトの混晶であること分かった。屈折率は1.54と1.61に不鮮明なシャドー・エッジが認められ、ハンディ・タイプの分光器ではスペクトルの赤色部に数本の吸収ラインが認められた。黄緑色の原因はマグネサイトに固溶するガスペアイト成分に由来すると考えられる。

  最近、写真-3に示した黄緑色のトルコ石を見かけるようになった。一見したところ、ガスペアイトを彷彿させるが、組成分析およびFTIRによる分光分析の結果、トルコ石に一致した。確認のため、X線粉末回折分析を行ったが、やはりトルコ石に一致した。通常と異なる色調はFeの含有量が多いこととNiの含有に関連していると考えられる。この黄緑色のトルコ石も一般的な空青色のものと同様、樹脂やワックスが含浸されている。


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