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ヘマタイトを模倣した強磁性の宝石素材を検査した。分析の結果、バリウムフェライトと呼ばれる永久磁石材料であることが分かった。 以下に、そのユニークな宝石学的特徴について報告する。 天然ヘマタイトは種々の地質学的産状を示し、その外観や緻密さもさまざまである。その中で金属光沢を有し、比較的緻密なものはビーズ珠やファセット・カットなど宝飾用に研磨されている。また、インタリオの重要な素材でもある。 ヘマタイトは古くから、色や外観が類似した人工物を用いた模造品が作られている。この種のものにはいくつかのタイプがあるようであるが、最近、しばしば見かけるものには強い磁性をもったいわゆる永久磁石材料がある。これらは安価な宝飾素材を扱う雑貨屋や露店などでも販売されている。中には“天然石”のラベルがつけられたものもある。 今回検査したのは写真−1に示したビーズのネックレスの一部である。この珠の直径は10mmであるが、同様の素材でさまざまなサイズやドロップ型など他の形状のものも市販されている。 一見した所、金属光沢で外観や手にした感触は天然ヘマタイトに酷似している。しかし、ヘマタイトは磁性がないか弱いのに対し、この類似石は強力な磁性を有している。適当な磁石を近づけると強く引き付けられる。また、この類似石同士でもゆるやかに引き付けあう。この強磁性がまず最初の鑑別特徴となる。 |
顕微鏡による拡大検査では、天然ヘマタイトに通常存在する赤い点状の結晶(写真−2)がこの類似石には認められない。また、組織そのものも若干異なっている。 破壊検査になるが、条痕を検査することができれば鑑別の手掛かりとなる。ヘマタイトはその粉末の赤い色に因んでギリシャ語のhaima(血)から命名されている。すなわちその条痕色(粉末の色)は赤ないし褐赤色である。この強磁性の類似石は硬度が高いようで条痕がつきにくく、その色もヘマタイトに比べ赤味が弱い。 さてここまでの一般検査においてこの類似石は天然ヘマタイトでないことは明らかであるが、その素性を明確にするためX線粉末回折分析と蛍光X線による組成分析を行った。 その結果、この強磁性の素材はバリウムフェライトと呼ばれる永久磁石材料であることが分かった。 バリウムフェライトは化学式が BaFe12O19で表される亜鉄酸塩でマグネトプランバイト型の六方晶系結晶である。この結晶は天然には対応物が存在しない人工結晶である。そして、その細かい人工結晶粒がセラミックの技術で焼結された多結晶体がこの強磁性素材である。 したがってこの類似石の鑑別結果は“模造石”となります。 |