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宝石学会(日本)講演会から
ロシアの合成石・処理石の現状
       2000年 バリツキー博士特別講演

 去る7月22日(土)と30日(日)の両日、技術研究室にパリツキー博士を迎え、同セミナー・ルームにおいて特別講演を開催しました。ジェモロジストにとって極めて興味深い内容でしたので、以下にご報告いたします。
 

バリツキー博士は現在、ロシア科学アカデミー応用鉱物学研究所の主任教授をされています。ジェモロジストのあいだでは、世界で初めて商業的な方法でアメシストを合成され
た方として著名です。今回は、高知で行われた熱水反応に関する国際会議出席のために来日されました。およそ10日間の滞在中に、貴重な時間をさいていただき今回の講演となりました。
 通訳は鉱物科学研究所所長の掘秀道先生にお願いしました。堀先生は、ご存じのとおり、石の名探偵として著名な方で、ご自身、新鉱物を発見されるなど、現在でも鉱物浸けの日々を送っておられます。モスクワ大学地質学部に留学されていた経歴をお持ちで、ロシア語に堪能で以前からバリツキー博士とも交友があることから、快く今回の公演をバック・アップしていただきました。(写真)

 今回の特別公演は、現在、ロシアで製造されている合成石と処理石の現状についてをテーマに、どこで、どのような方法で、またどのようなルートで市場に流れて行くのかについて詳しくお話いただきました。
 なかにはバリツキー博士の研究にまつわる苦労話や、博士の作られた合成石が世界的に著名な鑑別機関において天然と判断されたというエピソードなどが盛り込まれており、予定時間をはるかに超過するホットな講演となりました。
 誌面の都合上、以下に主要な合成石を中心に、その講演内容を概観してみたいと思います。


 旧ソ連において、結晶合成は主として国防や科学的・技術的な目的のために行われてきました。そして育成された結晶は、ほとんどが国内で消費されていたようです。旧ソ連が分裂し市場経済が発達するにつれ、結晶育成技術は輸出用のジュエリー製造に向けられるようになり、現在では表−1に示す種類の宝石代用石が製造されています。そしてこれらは、主にに示す地域に輸出されています。


<ダイヤモンド>
合成ダイヤモンドは高温高圧法で製造されているが、GEの方法とは多少異なる。黄色がメインであるが、カラレスやブルーも少量育成されている。最大でも5ct未満である。

<コランダム>
 ルビー、サファイアが各種の方法で大量に合成されている。
 ベルヌイ法が最も安価で、量が多い。CZ法は若干高価で、フラックス法は少量で、熱水法は極少量である。

<エメラルド>
 合成エメラルドは、ほとんどが熱水法により製造されている。ノボシビルスクで5社、ロシア全土では14社が合成している。これらは互いに連携なく独自のラインで製造しているため供給過多となり、価格破壊が生じている。以前は2〜3$/ctであったものが、20¢/ctに暴落している。主な輸出先はタイである。

<アレキサンドライト>
 合成アレキサンドライトはCZ法で製造されている。融点が高いので、イリジウムやプラチナ製のるつぼが用いられており、このため金属インクルージョンが混入している。
 少量ではあるがフラックス法でも製造されており、これらは鑑別が困難である。また、聞くところによると、熱水法でも合成されているらしい。

<スピネル>
 合成スピネルは古くからベルヌイ法で製造されているが、これら識別が容易である。近年はフラッ法によっても製造されており、こちらは識別が困難である。特にフラックス合成レッド・スピネルは、天然との鑑別が極めて困難である。以前は天然にはZnが含まれるが合成には含まれないといわれたが、現在は合成にもZnを添加している。フラックス合成レッド・スピネルが天然のアフガニスタン産として販売されたら困るのではないだろうか。しばしばそのようなことが行われている。

<オパール>
 近年では新しい技術がオパールの合成に用いられており、これらは天然と何ら遜色のないものに仕上がっている。ホワイト・オパール(写真参照)は安定化のためにポリマーが含浸されている。このため、こすった時の臭いや赤外分光で鑑別することが可能である。しかし、ブラック・オパール(写真参照)はギルソン製のように充填剤としてZr酸化物を用いていないので識別が困難であろう。

<水晶類>
 ロシアでは工業用途として大型の合成水晶が製造されている。携帯電話用として日本からのオーダーも受けている。プリズム用や遠距離ラジオ通信用として20kg以上の結晶が製造されている。
 着色した水晶類や各色の組み合わせによるマルチカラー・タイプも合成されている。
 P(リン)を用いたピンク色(写真参照)が合成中最も高価である。
これは腐食性の強い弗化物溶液を使用するため、小さなオートクレーブで一度に少量しか製造できないためである。最近はNiを用いた新しいタイプの合成ローズ・クォーツも製造されている。
 合成アメシストは、量産タイプのものは基本的には1方向のカラー・ゾーニングとブラジル双晶の欠如により識別が容易である。しかし、結晶の端部には2方向以上のカラー・ゾーニングが見られ、また種結晶付近からブラジル双晶が発生することもあるので注意が必要。特殊なタイプとしてr面を種に合成されたものや、両錐型の晶癖を持つ結晶は識別が極めて困難であろう。
 マルチ・カラー・タイプの代表としてアメトリンがある。天然ではボリビア産のものが有名だが、合成のアメトリン・タイプ(写真参照)がボリビアで売られているらしい。天然ではr領域がアメシスト色でz領域がシトリン色であるが、合成ではrおよびz領域が紫色で、底面領域が黄色である。


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