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宝石学会(日本)講演会から
ジェイダイトに関する諸問題
     全宝協技術研究室  福島 秀明

■ はじめに
一般に知られているジェイダイトは単一の結晶ではなく、ヒスイ輝石が繊維状に集合した岩石である。また、個々のヒスイ輝石の結晶も固容体を形成することから、一口にジェイダイトと言っても、その色調や化学組成、組織は一様ではない。近年では、岩石・鉱物のフィールドにおいて少なくとも一部のジェイダイトはヒスイ輝石とオンファス輝石からなると解釈されており、今後、宝石としてのジェイダイトの定義を再検討する必要がある。
また、最近鑑別に持ち込まれる“ジェイダイト”の中には、一般的な緑色ジェイダイトとは明らかに異なる、不均一な外観を示すタイプが急増している。このような一見ジェイダイトとは異質な外観を示す素材の宝石学的な特徴とSEMによる構造およびEPMAによる組成分析を行った結果を報告する。

■ オンファサイト成分を含むジェイダイト

1. 一般的な緑色ジェイダイト
業界ではロウと呼ばれ、透明度、光沢が高く繊維状組織が目立たないミャンマー産ジェイダイトを検査した【fig−1】。一般鑑別検査では屈折率1.66、分光光度計にてクロム・ラインが認められる。透過光で観察すると部分的には若干の組織が見られるが、肉眼ではほとんどわからない【fig−6】。これらには蛍光X線組成分析にてジェイダイトの組成元素のほかにCa、Mg、Feが検出された。またSEM像からは非常に小さな粒径の輝石からできていることが判る【fig−7】。拡大してみると暗い部分の隙間に明るい部分が存在していることがわかる【fig−8】。これをEPMAで分析したところ、暗い部分はヒスイ輝石で、明るい部分はオンファス輝石であった。つまり、ロウ タイプのジェイダイトでもヒスイ輝石の結晶粒間にオンファス輝石が混在していることが確認されたのである。

2. オンファサイト
濃緑色で、一見ネフライトのような外観を示す【fig−2】。屈折率は1.66、分光光度計にてクロム・ラインが認められない。また透過光では、ジェイダイトに見られる繊維状組織は認められなかった【fig−9】
蛍光X線分析にてSi、Al、Ca、Mg、Naに加えてオンファサイトを示す組成が検出された。
SEM像では、図のように明部と暗部が認められる【fig−10】
EPMAで分析したところ、これらはいずれもオンファサイトであることが確認された。おそらく明暗の差は含有するFe、Tiの微量な差が影響していると思われる。

■ 不均一な外観を示すジェイダイト

ミャンマー北部で産出するといわれ、最近よく持ち込まれるタイプ【fig−3】。一般的なジェイダイトと異なる点は、濃緑色不透明から白色までの不均一な色を示すこと、また明瞭な粒状構造を示すことである。屈折率は1.66、分光光度計にてクロム・ラインが認められる。
蛍光X線分析では通常より多量のCrとFeが、またCa、Mgも検出された。X線粉末回析の結果は、オンファス輝石とヒスイ輝石の混合物であることを示している。SEM像には明らかな明暗の差が見られるように、組織は非常に不均一である【fig−11】

このタイプはEPMAの分析結果では、クロムを含むジェイダイト、クロムを含むオンファサイト、そしてクロムをほとんど含まないジェイダイトが基本となっており、肉眼で鮮緑色に見える部分はクロムを含むオンファサイトとクロムを含むジェイダイトより構成されていた。また、金属光沢を示す鉱物はクロマイトであった【fig−12】。このタイプの中には、部分的に無色の他種鉱物を含むものもある【fig−13】。斜光照明で観察すると、明らかに異なる光沢を示し【fig−14】、実際に屈折率を測定したところ約1.52の低い値が得られた。
蛍光X線分析では無色部分にはmol比で約70%のSiOの含有が見られ、またNa、Alとの組成比から考えると、おそらくアルバイトと考えられる。

■ その他のヒスイ様緑色岩石

1.マウシットシット(Maw sit-sit)
数年前から、ジェイダイトの類似石として市場に出回っているが、緑色、黒色、白色の斑状又は脈状の組織が特徴的である【fig−4】
X線粉末回析の結果、緑色部はコスモクロア+エッケルマナイト+アルバイト。黒色部はエッケルマナイト+アルバイト、白色部はアルバイトであった。

.2.ブラック・ジェード
肉眼では黒色に見えるが【fig−5】、強い光を透過すると、鮮緑色と黒色部から構成されていることが分かる【fig−15】
蛍光X線分析の結果、Alに乏しく、その他Si、Cr、Fe、Na、Mgを含有することが確認された。
X線粉末回析ではコスモクロアとエッケルマナイトやエデナイトなどの角閃石類の回折ピークが得られた。
SEM像からは微細な柱状結晶(明部)の間に別の鉱物(暗部)が存在していることがわかる【fig−16】。EPMAによって、この石の大部分を占める明るい部分はコスモクロアで、その間の暗部はエッケルマナイトであることが明らかにされた。また、部分的にコスモクロアの放射状集合体の中心部にクロム・スピネルが存在していた【fig−17】

■ まとめ

EPMA分析によってロウタイプのジェイダイトでは、Mg、Caは固容体として存在しているのではなく、ジェイダイトよりなる部分とオンファサイトよりなる部分にそれぞれ分かれて存在していることが判った。このことから、ごく一般的な緑色ジェイダイトにおいてもオンファサイトを伴っている可能性は一層高く、宝石としての「ジェイダイト」は、ジェイダイト(ヒスイ輝石)とオンファサイト(オンファス輝石)から構成される岩石と考えるのが妥当と思われる。さらにこれらに近接する各変種の区分についても再考が求められるかもしれない。また、最近マーケットに流通している不均一な外観のジェイダイトや他種鉱物で構成される暗緑色岩石についても、構造および組成分析の結果から、適正な呼称を決定することが求められる。


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