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合成水晶類の識別

 
全宝協技術研究室  間中 裕二
◆はじめに
水晶は特殊な電気的性質から、振動子として時計をはじめ携帯電話等の電子機器に幅広く応用され工業分野では不可欠の結晶である。これらに使用される水晶は結晶欠陥の少ない合成水晶であり、その製造の歴史はいかに欠陥を少なくするかという研究の歴史でもある。
 従来から宝飾用に用いられる水晶はこれらの廃品(結晶欠陥が多い等)が供せられ、天然水晶との区別が問題となっていたが、工業的に量産される水晶は生産効率の問題もあり、原石は特殊な用途でない限り規格化されたサイズである。したがって、カットされる合成水晶の大きさも丸玉でせいぜい直径40〜50mmといったところであった。しかし、ここ2〜3年の間に直径が80mmを超える大型合成水晶の丸玉も市場に出回りはじめ、水晶鑑別の重要性がさらに高まっている。今回発表の合成水晶(ロック・クリスタル)もこの80mm超の丸玉についてその特徴を述べたものである。
 有色の合成水晶類もアメシスト、シトリン、スモーキ、ブルー、グリーン等の各色の単結晶が製造されてきたが、近年ではアメトリンをはじめとするパーティカラードの合成水晶も量産されている。

◆合成ロック・クリスタルの鑑別
 ティンダル現象は、多数の微粒子が散在する透明物質内で光が散乱されるとき、入射光に対して違う方向から眺めると光の通路が濁って見えるという現象である。この現象を利用し、背景を暗くしてファイバー光を当て内部を観察したものが写真1・2である。
 写真1は、C軸方向から光を入射し、光軸に垂直方向からの見た像である。光と直交方向つまりC面に対応する何層もの模様が見られることからZ板を種子結晶としていることがわかる。C面は通常天然水晶には存在せず、この模様が確認できれば合成の根拠となる。
また、光と平行つまりC軸方向に伸びた成長縞も見られるが、これは図1−4に示される線状欠陥模式図に対応するものである。成長速度が速ければ速い程この欠陥は現れやすくなる。写真2は、光軸に垂直方向から光を当て光軸方向から見た像で、この羊雲状の模様は、写真1のC軸方向に伸びた成長縞を真上から見たものである。合成水晶ではZ領域内でセル組織が形成され、多くの転移はセルの境界に引き込まれる。セルの境界は成長表面ではcobbleと呼ばれる凹凸組織の境界と一致し、合成水晶のC面特有の模様となる。羊雲状組織はまさしくこのcobbleに相当し、こちらも合成の証拠となる。
水晶(ロック・クリスタル)の鑑別においてはFT−IRを用いた赤外のデータが非常に有効であることは、近年の発表を見ても明らかであるが、当大玉は3600カイザー以下不透過であり、3595カイザー(天然)、3585カイザー(合成)等の吸収を見ることができない。赤外不透過の要因として考えられる第一の理由は、工業用の合成水晶を製造する場合、欠陥を少なくするため成長速度をかなり抑えてあるのに対し、このような大玉は速く大きくするこを主たる目的とするために、欠陥が多く発生しこの赤外領域を大きく吸収するということ、第二の理由は、OH濃度は成長面の方位に大きく依存し、主たる成長領域であるZ領域(特にZ-)で散乱強度が大きいことがあげられる。図2はバリツキーら(1986)による各セクターの赤外吸収の違いを示した図である。この例はアメトリンであるが、<r>、<z>の菱面体面は透過率がよいのに対し、やはりZ領域に対応する<c>面は透過率が悪いことがわかる。
 以上のように水晶の天然・合成の決め手となる赤外吸収を測定できない場合でも、モルフォロジーを理解し注意深い観察によって分析機器を用いなくても鑑別可能となる例である。
写真-1 写真-2
図-1
図-2
◆パーティカラード・クォーツ(アメトリン)の鑑別
 アメトリンにもZ板を種子結晶とする合成が存在する。図3のようにZ領域の<c>面に平行な縞模様が観察され、上述の合成ロック・クリスタル同様、合成であることが確定できる。また、光軸方向にも成長縞が観察される場合があり、これも同様に合成の特徴である。
 一方、天然のアメトリンには<c>面が観察されるのはごくごく稀なことであり、通常は存在しない。また、天然の場合ブラジル双晶がよく観察され、特にブリュスター・フリンジ(図4)が観察される場合、現時点では天然の証拠と考えてもよい。合成の場合多くは双晶を示さないものが多く、ブラジル双晶は合成にも存在するがその形状は向きが一方向にそろっていてその角度が狭く細長い印象を与えることが多く、天然のように三方向に見られるものは今までの例で合成と確定されたものは存在しない。
 天然石のブラジル双晶の特徴は<z> セクター内ではほとんど双晶が見られず、<r>セクター内に入るとブラジル双晶が確認されることが多い。<r>セクター内では、偏光下ガラス棒で干渉像を観察すると図のように干渉像の端部がしっぽを振るように左右に繰り返しながら動き、通常の鑑別手法でブラジル双晶していることを確認できる。ブリュスター・フリンジを見ることが難しい場合でもこの手法により、二方向または三方向にブラジル双晶が確認できれば、天然の可能性が高い。
 最近では新手の合成も登場しているといわれているため、鑑別は以前にも増して難しいものとなっているが、そのような場合でも成長の履歴を物語るモルフォロジーを鑑別に応用することはますます重要となってくるであろう。
図-3
図-4


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