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宝石学会(日本)講演会から
ダイヤモンドのハート・キューピット・パターン続報
     2000年 宝石学会(日本) 講演

1. まえおき
 ハート・キューピット・パターン(以下H.C.とする)の出現理由やその形状とカット・プロポーションの関係については、数年前の宝石学会で既に報告済みである。
 このパターン、特にハート・パターンはパビリオン側に、特殊な照明条件のもとでのみ観察されるものであり、物珍しさをねらった一過性の流行に過ぎないものと推測され、そのように報告した。しかしながら、現在に至るまでの数年間、日本市場では依然として一定の支持を得ながら経過してきている。
 先に報告したように、このパターンの出現と形状は主としてカット・プロポーションとそのシンメトリー、特にパビリオン側のそれに支配されている。すなわち、光の反射屈折に関与する面の角度、方位および相対する面との携れの有無など三次元的な相互の関連性に支配されている。
従来のカット評価が、単に二次元的な面の配置、寸法やその角度を判断の規準とし、三次元的なそれはほとんど考慮されていないのに比較すると、このパターンはより完全なカット・プロポーションの判別を可能にするものである。図1の模式図のように、エクセレント・カットにこのパターンが必ずしも対応しないのは、このことに原因している。この一例として、エクセレントと鑑定された石のハート・パターンの映像を示しておく。写真のように1個のハートが、他に比較して著しく小さくなっていることがわかる。これらの事実がH.C.の存在価値を高めているのであろう。本続報では、このことに焦点を当てて論ずることとする。

2. H.C.の出現理由
 三次元的なシンメトリーを考える前に、前回報告したH.C.パターンの出現理由を見直しておく。図2がこの槻略説明図である。あるボトム・ブリリアント面(BB面)に見られるハートは、この面とキューレツトを挟んで相対する、反対側の同種面に隣接するパビリオン面に入射する光りにより出現する。すなわち、図のOの部分の図形が、ハートが出現するボトム・ブリリアント面の角度方位方向に沿って平行移動し、ハートの半分である図のPの部分を形成する。同様に、Qの部分がRに移動し、PとRが合体して一つのハートを形成する。この平行移動の方向、すなわちBB面の角度方位μ°(隣接のパビリオン面の角度方位となす角)は正常であれば隣接のパビリオン面の方位を基準として、μ=11.25°である。
 シンメトリーが完全な場合については、平面図、立面図の両方を用いて、H.C.形状の算出が可能であり、この算式とこれによる計算結果は、先の報告で示したとおりである。

3.現実のパターンとその計算式
 前述の計算式は、あくまでもシンメトリーが完全な、言わば特別な場合のそれであり、現実にはシンメトリー、特に三次元的なそれが完全なのはほとんどあり得ない。したがってここでは、より一般的な場合、すなわちシンメトリーの崩れた場合算式を導入しておく必要がある。
これにより現実のH.C.から、その石のプロポーションやシンメトリーの欠点を推定することが可能になる、すなわちカット・グレードの良否が判別できることになるからである。

三次元的なシンメトリーの崩れは、主としてガードル厚さの不ぞろいにより生ずる。ガードルは本来、均等な波を打つべきであるが、現実には不規則な場合が多い。図3のように、BB面の交線部がδ%厚くなった場合を考える。この場合の影響は、まずBB面の角度が変化することであり、次に角度の方位が変化することである。すなわち、三次元的なシンメトリーの乱れである。ここで重要なのは後者である。相対する面との方位がずれることになり、光の反射方向が変化することになるからである。この場合の角度方位は図3から計算可能であり、δ=1%ならば、μ=7.9°(パビリオン角度40.75°笹目点78%の場合)となり、δ=−1%ならば、μ=14.5°と計算される。
またこのときのBB面角度は、それぞれ41.40、42.50となり、平常の場合の41.90に対し0.50程度減少したり増加したりすることになる。当然のこととしてH.C.が様々な変化を示すことになる。

4.μの変化とハート・パターン
 μが変化する理由と、その変化による影響は上に述べたとおりである。
これが実際にどのようにハート形状の変化につながるのかを示したのが図4である。図のようにμが増大する、すなわちBB面の交線部のガードル厚さが薄くなると、ハート形状は著しく小さくなる。先に示した写真は、まさにこの例であったわけである。
 これらの形状については、先に報告した計算式(シンメトリーが完全な場合)の方位の数値、11.250の代わりに、(22.50−μ°)を用いれば計算できる。この計算結果と図形は表1図4のとおりである。

5.V字パターンの変化
ハートの先端部のV字パターンは、この出現に関与する面がハート・パターンとは逆の関係にある。ハートの場合には、光はパビリオン面から入射してBB面から出てくるのに対し、V字には変化を及ぼさないことになる。ただ、V字が不ぞろいなパターンを示していることが多い。これは、今回主として取り上げたガードル部分の不ぞろいによるよりも、むしろパビリオン面の角度とその方位に原因があると思われる。今後の研究課題としたい。

6.まとめ
 ハート・キューピット・パターンは、プロポーションとシンメトリーを端的に表現する映像である。現在のカット・グレーディング方式で最上位にランクされているエクセレント・カットは、このハート・パターンとは必ずしもリニアーには対応しない。片や二次元的な見方の結果であり、片や三次元的なプロポーションの反映であるからである。またハート・パターンが見られても、そのプロポーションが現行のエクセレント基準から外れている場合があるからである。
 このことから、ハート・キューピット・パターンをカット・グレーディングの一要素として取り入れ、現行のエクセレント・カットにおいては、その必要条件として考えてもいいのではないかと考える。


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