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今月の鑑別室から 2000.2
合成ロッククリスタルの丸玉
<Spheres of Synthetic Rock Crystal>
 一昨年の末頃より直径60mm〜80mmupの合成ロッククリスタルの丸珠が鑑別に持ち込まれるようになった。これらの鑑別には結晶成長の確かな知識と精密な分析機器が不可欠である。
Synthetic rock crystal spheres with the diameter 60 to over 80mm started to be sent in our laboratory for identification since the end of the year before last. Proper knowledge of crystal growth and precision devices for analysis are essential to identify the stones.
 水晶はそれらが有する特殊な電気的性質のため工業分野では不可欠の結晶である。時計、プリクラやビデオカメラ、携帯電話等は水晶の結晶なくしては考えられない。これらに使用されている水晶は結晶欠陥のほとんど存在しない合成水晶である。
 合成水晶の歴史は古く、1960年代からはすでに工業的な量産が始まっている。同様に宝飾に供される水晶の歴史も古く、何も最近になって合成水晶の丸珠が出現したのではない。工業的に量産される水晶は生産効率の問題で原石は特殊な用途でない限り規格化されたサイズである。通常は工業用に合成された水晶のいわば廃品が宝飾用に供されるため、カットされた合成水晶も当然のことながらサイズに限りがある。丸珠であればこれまではせいぜい直径が40〜50mmまでであった。
 ところが最近になって冒頭で記したような80mmを越えるような大きな合成水晶の丸珠が鑑別に持ち込まれるようになってきた。日本国内ではこのような大型の水晶は合成されていないのでおそらく中国やロシアなどで彫刻や丸珠等の宝飾用として合成されていると推測される。
 さてこのような大型の合成水晶は見かけは透明な無傷の上品であっても丹念に検査するとたいて合成水晶特有のパン屑状インクルージョンの散在が認められる。また、時には極めて微細なクラウド状インクルージョンの粗密の分布が認められる。この場合、背景を暗くしてファイバー光等適切な照明下で観察するとクラウドは光軸に垂直な縞模様を形成しており(写真−1)、光軸方向からは羊雲のように見える(写真−2)。これらは明らかに合成水晶の特徴で前者は光軸にほぼ垂直な種結晶を用いたモルフォロジーに対応し、後者はそのコブル構造に対応している。
また無色の合成水晶の鑑別には赤外領域の分光分析が有効である。天然と合成では成長時の熱水等の環境が異なるためである。しかし、一般に宝石鑑別ラボで使用されているFTIRによる赤外分光測定にも得られたデータの解析の他、測定上の制約等限界がある。特にサンプルのサイズや枠付の状態によっては測定が不可能なこともある。
今後、大型の丸珠等合成水晶の鑑別にはこれまで以上に結晶成長に関する正しい理解と精度の高い分析技術が要求される。


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