>>Topへ戻る >>「Research Lab. Report」タイトルリストへ戻る

'99宝石学会講演から
合成カラー・ダイヤモンドの宝石学的特徴
福島 秀明

 近年、学会や情報誌などでも合成ダイヤモンドについての報告が毎年のように行われており、その関心の高さと宝石学における重要性がうかがえる。
また、一般鑑別においても、合成ダイヤモンドに遭遇するケースが増えており、ダイヤモンドはグレーディングのアイテムから鑑別のアイテムとして捉える必要性があると言える。
特に最近では、今まで市場性のなかったカラーレス、ブルー、レッド、及びカラーチェンジ・タイプの合成ダイヤモンドが市販されている。本報告では、これらの合成ダイヤモンドにおける宝石学的特徴とカソード・ルミネッセンス(以下CLと略す)による同色の天然ダイヤモンドとの相違について紹介する。
(イエロー系については1997年度宝石学会報告を参照)

<1>カラーレス・ダイヤモンド【fig-1】

◆天然カラーレス・ダイヤモンド
 ほとんどは、Ta型でN3センターを伴っている。そのため長波紫外線にて青白、すみれ、ピンク色
蛍光を示すします。CL像は青色発光と累帯構造に対応する成長縞が典型的な特徴。【fig-2】

◆合成カラーレス・ダイヤモンド
 合成時に窒素ゲッターを添加して成長スピードを遅くすることで、ほぼ無色の
IIa合成ダイヤモンドを製造している。長波、短波紫外線で一般に不活性だが、短波紫外線にて数分間に及ぶ燐光を示すのが特筆すべき特徴。CL像では六−八面体のセクター・ゾーニングを示し、八面体成長領域にはホウ素の凝集による発光が認められる。【fig-3,4】

<2>ブルー・ダイヤモンド 【fig-5】

◆天然
IIbブルー・ダイヤモンド
 窒素を含まず、ホウ素による着色で青色を呈する。電導性を有し、偏光下で“タタミマット”と称する細線状の歪みを示す。【fig−6】長波、短波紫外線蛍光では不活性だが、短波紫外線にて数秒から十秒程度の短い燐光を示す。CL像では、濃紫青色の一様な発光に、微細なドット状、細線状パターンが認めらる。【fig-7】

◆合成IIbブルー・ダイヤモンド
 窒素ゲッター(Ti,Al,Zrなど)とホウ素を添加して濃淡様々な
IIb型の合成ブルー・ダイヤモンドが得られる。合成石も天然石もIIb型であるため、分光や電導性検査、紫外線蛍光では起源を証明できないが、偏光下で天然特有の“タタミマット”が認めらず、液浸(ヨウ化メチレン)することで成長分域に規制された色むらが顕著に観察できる。               【fig-8】
また、金属インクルージョンの存在【fig-9】や短波紫外線にて数分から十分を越える強い燐光も合成の典型的な特徴である。CL像では、セクター(分域)に規制された色むらがより明瞭に認められる。
これはホウ素のセクター依存性が強く、八面体成長領域に入りやすいためである。【fig-10】

<3>ピンク〜レッド系ダイヤモンド【fig-11】

◆天然ピンク〜レッド系ダイヤモンド
 ナチュラルカラーのピンク・ダイヤモンドの他に、
Ibタイプのダイヤモンドに放射線照射〜アニールすることにより得られる色調がある。そのため各種検査によって処理であることが解っても、生成起源を識別しなくてはならない。天然石を照射処理したものは、CL像にて、後天的な塑性変形に起因する八面体面に平行な細線が認められる。【fig-12】

◆合成ダイヤモンド(カラーチェンジ・タイプ)
 自然光下で緑黄色が強く、白熱光下でオレンジ色が強く見える色調をもつ。おそらく
Ibタイプの合成ダイヤモンドを電子線照射+アニールの工程を経て得られたものと推測される。八面体面成長領域ではH3センタ−による黄緑色蛍光を発し、六面体成長領域ではN−Vセンタ−によるオレンジ色蛍光を発し、これが変色性に関与していると考えられる。CL像では、六−八面体のセクターゾーニングが明瞭に捉えられる。【fig-13,14,16
また、六面体成長領域(オレンジ色発光部)に認められる直線的な成長縞は天然には見ることのない合成を示唆するものである。【fig-15】


Copyright ©2000-2001 Zenhokyo Co., Ltd. All Rights Reserved.