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ロシア製の人造石および合成石
1999年度宝石学会日本講演要旨

◆ はじめに
ロシア製人造石および合成石には、キュービック・ジルコニア、G.G.G.、ダイヤモンド、ルビー、およびエメラルド、水晶類など様々あるが、近年では天然石を手に入れることが非常にまれであるがゆえに、レアストーンの合成石やこれまで市場に出ていない人造石なども、需要の増加にともない製造されている。

◆ 試料および分析方法
ロシアで製造された熱水法合成レッド・ベリル、合成ジンサイトおよび人造キュービック・ジルコニア(カラーチェンジ・タイプ)を一般的な宝石学検査以外の可視分光光度計、近赤外分光光度計、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF)にて分析した結果を以下に報告する。

◆ 分析結果
A レッド・ベリル
a) 可視領域の吸収スペクトル
天然および合成レッド・ベリルの可視分光光度計による分光曲線を図1図2に示す。波長(800nm〜200nm)を横軸に透過率(T%)を縦軸に取っている。
天然ベリルの特徴として、430nm,370nmにFeの吸収および550nm 付近のMnの吸収を認める。
合成レッド・ベリルの特徴として、750nmに天然にはないCuに起因する吸収、409nm455nm にNiに関連すると思われる吸収が認められる。
b)近赤外領域の吸収スペクトル
天然レッド・ベリル、合成レッド・ベリルの近赤外分光吸収を図3図4に示す。天然レッド・ベリルは特殊な産状から、天然のベリル鉱物に一般的なH2O関連の吸収は示さない。これに対し合成レッド・ベリルは、熱水法特有のH2O関連の吸収が確認できる。
c)元素分析
EDXRFにて元素分析した結果、天然レッド・ベリルには主元素であるAl,Siのほかに微量元素としてNa・K・Ti・Mn・Fe・Zn・Rb・Csが検出された。
合成レッド・ベリルは天然に一般的な微量元素のZn・Rb・Csが検出されず、Co・Ni・Cuが検出された。

B ジンサイト
a)可視領域の吸収スペクトル
ジンサイトの可視分光曲線を図5図6に示す。天然および合成ジンサイトともに、特徴的な吸収は認められない。
c)元素分析
EDXRFにて元素分析した結果、天然ジンサイトは主元素であるZnのほかに微量元素のMn・Niが検出された。それに対し合成ジンサイトは、天然にて検出されていた微量元素のMnは検出されない。

C 人造キュービック・ジルコニア(カラーチェンジ・タイプ)
a)可視領域の吸収スペクトル
人造キュービック・ジルコニア(カラーチェンジ・タイプ)の可視分光曲線を図7に示す。750〜730nm付近と590nm〜530nm付近にNdの吸収と、610nmにPrの吸収を認める。
c)元素分析
元素分析では、無色のキュービック・ジルコニアと比較してみると、主元素であるZrおよび安定剤のY以外に微量のPr・Ndが検出された。この希土類元素Pr・Ndが変色効果に起因していると考える。

◆ まとめ
今回の分析結果から、いかに精巧に造られたレアストーンの合成石および模造石であっても、主要宝石同様、分析機器を使用することにより、鑑別上、天然、合成、模造石の判定は可能である。
また今後、さまざまな合成石、模造石が製造され、市場に流通してゆくだろうと考えられるので、細心の注意が必要とされる。


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