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'99年宝石学会(日本)講演会から
天然ダイヤモンドにおけるHPHT処理の効果について

無機材質研究所 神田 久生  全宝協 技術研究室 北脇 裕士
◆はじめに
ダイヤモンドをHPHT(高温高圧)処理することによって拡散した不純物窒素が凝集することはよく知られている。この原理を応用してロシア製合成ダイヤモンドの一部が
Ibタイプの濃い黄色からIaAの淡い黄色に処理されている。
また、今年になってGE社の新技術による処理(方法は公表されていないがHPHT処理と思われる)が業界内でも話題になっている。
 本稿はHPHT処理の天然ダイヤモンドへの効果を確認するために現在も継続して行っている研究成果の一部を本年6月に開催された宝石学会(日本)で講演した内容である。

◆背景
◇GE社の新加工ダイヤモンド
 本年4月にGE社が新技術によって加工したダイヤモンドをアントワープに設立されたペガサス社(LKIの子会社)が販売を開始すると発表された。LKI社によるとこの処理はダイヤモンドのカラー、光沢、輝きの質を改善するもので恒久性がある。処理方法は将来的にも公表されないが、あるタイプのブラウン系の天然ダイヤモンドを処理し、D〜Lカラーに改善している。販売されるダイヤモンドは0.5〜10ctの範囲でガードルにGE POLの刻印が打たれている。

◆実験方法
 処理は無機材質研究所のベルト式高圧発生装置を用いて6万気圧、
1800°Cの条件で5時間行った。
処理にはブリリアント・カットされた各タイプのブラウン系ダイヤモンドを黒鉛板の上に置き、周辺をNaClまたはBNで充填して用いた。
◆キャラクタリゼーション
 以下の方法により処理前後の評価を行った。
・カラー・グレード
・クラリティ・グレード
・紫外−可視分光
・赤外分光
・フォト・ルミネッセンス
・カソード・ルミネッセンス
・光学顕微鏡
・SEM

◆実験結果
表-1に示した通り、
IaBの要素を多くもつブラウンのダイヤモンドは処理によって黄色みが強くなった写真-1および写真2左から2番目】。これは処理によってH3センタが形成されたためである。この際、処理前に認められた褐色の色帯【写真−3】は処理によっても消失せず、黄色みが強くなった【写真-4】
Iaタイプのブラウンは2pcのうち1pcが処理によってわずかに淡色化した写真-1および写真2右から2番目】。これは色調に影響していた塑性変形による欠陥が熱処理によって変化したことによる。フォト・ルミネッセンスの測定では淡色化した方のみに491nmの発光(IaBタイプを塑性変形させた時に生じる)が認められ、それが処理によって消失した。
H-richタイプおよび
IaAタイプのダイモンドは処理によって色調に変化はなかった。
 処理したダイヤモンドすべてにおいてインクルージョンおよびクラリティ・グレードの変化は認められなかった。
[表-1] 試料および実験結果
試料番号 タイプ 処理による変化
No.1 IIa 特になし
No.2 IIa やや淡色化
No.4 IaA<IaB H3による黄色み
No.5 IaA<IaB H3による黄色み
No.13 IaA 特になし
No.14 H-rich 特になし
No.16 IaB H3による黄色み
C1509 H-rich 特になし
C1515 IaA<IaB H3による黄色み
[写真-1] 処理前(両端は比色用未処理石) [写真-2] 処理後(両端は比色用未処理石)
[写真-3] No.5 処理前(褐色の色帯) [写真-4] No.5 処理前(色帯は消失せず、黄色みを帯びる)
◆まとめおよび今後の課題
 天然ダイヤモンドをHPHT処理することにより、一部のタイプのものに変化が見られた。 aタイプのブラウンはH3の増大により黄色みが強くなった。この際、褐色の色帯は消失しなかった。 aタイプのブラウンはわずかに淡色化したが、無色にはならなかった。したがって、色帯の存在する普遍的なブラウンは処理よっても黄色みが増すが、無色にはできない。 aタイプのブラウンはわずかではあるが淡色化したので条件を変えて処理すればより明瞭な効果が得られるかも知れない。
今後、ダイヤモンドのタイプの選択および処理条件に留意し、継続して研究を行う予定である。
 (北脇 裕士)


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