◆はじめに ダイヤモンドをHPHT(高温高圧)処理することによって拡散した不純物窒素が凝集することはよく知られている。この原理を応用してロシア製合成ダイヤモンドの一部がIbタイプの濃い黄色からIaAの淡い黄色に処理されている。
また、今年になってGE社の新技術による処理(方法は公表されていないがHPHT処理と思われる)が業界内でも話題になっている。 本稿はHPHT処理の天然ダイヤモンドへの効果を確認するために現在も継続して行っている研究成果の一部を本年6月に開催された宝石学会(日本)で講演した内容である。
◆背景 ◇GE社の新加工ダイヤモンド 本年4月にGE社が新技術によって加工したダイヤモンドをアントワープに設立されたペガサス社(LKIの子会社)が販売を開始すると発表された。LKI社によるとこの処理はダイヤモンドのカラー、光沢、輝きの質を改善するもので恒久性がある。処理方法は将来的にも公表されないが、あるタイプのブラウン系の天然ダイヤモンドを処理し、D〜Lカラーに改善している。販売されるダイヤモンドは0.5〜10ctの範囲でガードルにGE POLの刻印が打たれている。
◆実験方法
処理は無機材質研究所のベルト式高圧発生装置を用いて6万気圧、
1800°Cの条件で5時間行った。 処理にはブリリアント・カットされた各タイプのブラウン系ダイヤモンドを黒鉛板の上に置き、周辺をNaClまたはBNで充填して用いた。 |
◆キャラクタリゼーション
以下の方法により処理前後の評価を行った。
・カラー・グレード
・クラリティ・グレード
・紫外−可視分光
・赤外分光
・フォト・ルミネッセンス
・カソード・ルミネッセンス
・光学顕微鏡
・SEM
◆実験結果
表-1に示した通り、IaBの要素を多くもつブラウンのダイヤモンドは処理によって黄色みが強くなった【写真-1および写真2左から2番目】。これは処理によってH3センタが形成されたためである。この際、処理前に認められた褐色の色帯【写真−3】は処理によっても消失せず、黄色みが強くなった【写真-4】。
Iaタイプのブラウンは2pcのうち1pcが処理によってわずかに淡色化した【写真-1および写真2右から2番目】。これは色調に影響していた塑性変形による欠陥が熱処理によって変化したことによる。フォト・ルミネッセンスの測定では淡色化した方のみに491nmの発光(IaBタイプを塑性変形させた時に生じる)が認められ、それが処理によって消失した。
H-richタイプおよびIaAタイプのダイモンドは処理によって色調に変化はなかった。 処理したダイヤモンドすべてにおいてインクルージョンおよびクラリティ・グレードの変化は認められなかった。
[表-1] 試料および実験結果
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試料番号 |
タイプ |
処理による変化 |
No.1 |
IIa |
特になし |
No.2 |
IIa |
やや淡色化 |
No.4 |
IaA<IaB |
H3による黄色み |
No.5 |
IaA<IaB |
H3による黄色み |
No.13 |
IaA |
特になし |
No.14 |
H-rich |
特になし |
No.16 |
IaB |
H3による黄色み |
C1509 |
H-rich |
特になし |
C1515 |
IaA<IaB |
H3による黄色み |
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