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マシーシェ・ベリル再考 1999年宝石学会日本講演要旨 |
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マシーシェおよびマシーシェ・タイプ・ベリルについての歴史的背景と現状について概要を述べ、その色の安定性について行った実験結果について報告する。マシーシェおよびマシーシェ・タイプ・ベリルともに光と熱によって退色し、γ線照射によって着色することが確認できた。 ◆ はじめに ベリルの青色変種と言えば、海水青色のアクワマリンが馴染み深い。ところが、これ以外にもマシーシェおよびマシーシェ・タイプ・ベリルと呼ばれる濃青色ベリルが歴史的に知られており、わずかながら市場性もある。 これらは色の安定なアクワマリンと異なり、容易に退色するという性質を持つため、明確な情報開示が必要である。 ◆ 背景 宝石として一般的なアクワマリンは、結晶構造のトンネルの中に存在する不純物元素のFe2+が着色に関与している。それに対して、自然界での放射線照射によって着色したと言われる濃青色の「マシーシェ・ベリル」が、1917年ブラジルのミナス・ジェライス州のマシーシェ鉱山で発見された。また、1970年代になって、人工的な放射線照射によって着色されたと考えられる「マシーシェ・タイプ・ベリル」が登場した。これはマシーシェ・ベリルと見掛けが似ているものの、オリジナルとは産地および諸特性がわずかに異なるため、「タイプ」という言葉で区別されている。マシーシェおよびマシーシェ・タイプ・ベリルは、一般になじみが薄く、その特性、現状はほとんど知られていない。これらの最も重要な性質は、アクワマリンと異なり「色が不安定」、つまり、光や熱で容易に退色することである。 ここでは、マシーシェおよびマシーシェ・タイプ・ベリルの特徴を紹介するとともにこれらの色の不安定性について改めて実験を行ったので報告する。 |
◆ マシーシェおよびマシーシェ・タイプ・ベリルの特徴 ▼ オリジナルのマシーシェとマシーシェ・タイプ共通の特徴は主に次の3点である。 *( )内はアクワマリンの特性。 1.500nm〜700nmの赤色部に狭い複 2.数の吸収バンドを持つ。(427nm、370nmに吸収バンド) 3.二色性、明で通常光で濃色。(二色性、明で異常光で濃色) 4.光や熱で容易に退色する。(安定な色) 5.カラー・フィルターで変化なし(カラー・フィルターで特有の黄緑色) 6.紫外線蛍光で、長波・短波とも黄白濁蛍光が見られることがある。(長波・短波とも変化なし) ▼ オリジナルのマシーシェとマシーシェ・タイプの相違点は、赤色部の吸収バンドの位置で、分光光度計によって識別できる(図−▼ 1)。 |
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◆ 今日のマシーシェ・ベリルおよびマシーシェ・タイプ・ベリル マシーシェ・タイプは、現在も少量ながら市場性がある。濃いブルー(写真1a)であれば、色調によって容易にアクワマリンと区別がつく。しかし、写真で示すようなイエロ−イッシュ・グリーン(写真1b)やキャッツアイ石の色調(写真1c)などは、天然の色の安定なベリルにも同じ様な色調のものが存在するため、目視のみでは識別が困難である。 このようなイエロー〜グリーンの色調を呈するマシーシェ・タイプ・ベリルは、青みが失われてゆく退色過程にあるものと考えられる。したがって、色の経年変化の可能性について明確に情報開示がなされなければならない。 現在でも少量ながら流通しているマシーシェ・タイプ・ベリルに対し、オリジナルのマシーシェ・ベリルは“幻のベリル”と呼ばれ、これまで市場性は全くといってなかった。ところが、ごく最近になって、オリジナルのマシーシェ・ベリルと同じ分光特性を示すアクワマリン様の石を鑑別する機会を得た(写真3a)。 これは、マシーシェ鉱山ではないが、ブラジルのミナス・ジェライス州で産出したものであるらしい。 ◆ 退色実験 試料A-マシーシェ・タイプ・ベリル(写真2a)と、試料Bオリジナルのマシーシェと同じ分光特性を示すベリルT(写真3a)に対して、露光と加熱による退色実験をした。 ▼ 実験方法および結果 ▽ 試料A 150Wのハロゲン光を15cmの距離で30時間、5cmの距離で10時間、合計40時間あてる(温度は50℃を超えないように管理した)と青みが弱まった。さらに、アルコール・ランプで300℃で1分加熱すると、完全に青みが抜け、ピンク色(モルガナイト)になった(写真2b)。これでこの石の場合、照射処理を受ける前はモルガナイトであったことがわかった。また、退色に伴いマシーシェ・タイプ・ベリルは特有の分光特性も消失した。 ▽ 試料B ハロゲン光を5cmの距離で30時間あてると、ほぼ無色になった。さらに、アルコール・ランプで300℃で3分加熱すると、黄色みが出てきた(写真3b)。 |
◆ 照射実験 次に試料Aと試料C-オリジナルのマシーシェと同じ分光特性を示すベリルIIについて、照射によって着色するかどうか実験した。 ▼ 実験方法および結果 都立産業技術研究所にてコバルト60によるγ線照射をした。照射線量は約1.14×107R(レントゲン)。 ▽ 試料A 加熱によってピンク色の状態であったものが、照射後、濃青色になった(写真2c)。分光特性も照射後はマシーシェ・タイプ・ベリル特有の吸収を示した。 ▽ 試料C 加熱によって多少黄色みのあったものが、照射後は、より黄色みが強くなり、帯黄緑色になった(写真3c)。 ◆ 結論 実験からマシーシェ・タイプおよびオリジナルのマシーシェと同じ分光特性を示すベリルとも、従来考えられていたとおり、光や熱で容易に退色することが確認された。したがって、退色の可能性のあるマシーシェおよびマシーシェ・タイプ・ベリルについては、色の起源およびその不安定性についての明確な情報開示が必要である。 また、これらのベリルは、ハンディ・タイプの分光器による分光検査、カラー・フィルター検査などの一般的な鑑別検査において識別可能である。オリジナルのマシーシェとマシーシェ・タイプを明確に区別する場合は、分光光度計によるスペクトル解析が必要である。 |
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