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今月の鑑別室から 1999.6
合成ダイヤモンド鑑別の現状
 現在市販されている研磨済み宝石質合成ダイヤモンドのタイプと、それぞれの宝石学的特徴および鑑別のポイントについて報告する。

◆はじめに◆
 これまで合成ダイヤモンドの市場性に関する情報および看破法については、逐次報告して来た(例えば本誌1996年5月号、同8月号など)。最近になって、これまでに市場性のなかったブルーやレッドおよびカラー・チェンジ・タイプの合成ダイヤモンドが、市販されるようになって来た。これらの合成ダイヤモンドは、一般的な宝石鑑別検査において十分識別可能であるが、そのためには各タイプの特徴を把握し、常にダイヤモンドを“鑑別”のアイテムとして捕らえておく必要がある。

◆合成ダイヤモンドの種類◆
 現在市販されている合成ダイヤモンドは、イエロー〜ブラウン、ピンク〜レッド、ブルーおよびほぼ無色の4タイプに大別できる(写真−1)。以下ではそれぞれのタイプ別に天然ダイヤモンドとの識別特徴をまとめる。

◇イエロー〜ブラウン
  この色調は
Ibタイプの典型で合成ダイヤモンドの最もポピュラーなものである。
Ibタイプの天然ダイヤモンドは、ほとんどの場合特徴的な針状インクルージョンあるいは微小インクルージョンが存在するので、拡大検査で天然起源を確認することが可能である。
Ibタイプの天然石は特有の歪複屈折があり、これが認められた時は天然の証拠となる。不明瞭な歪は鑑別の手掛かりにはならない。
・長波および短波紫外線下で
Ibタイプの合成ダイヤモンドは不活性か緑黄色の蛍光を発する。蛍光検査において合成ダイヤモンドの証拠となるのは十字型または砂時計型のグロース・セクター(成長分域)に依存した蛍光むらが認められた時のみである。

⇒最近、カラー・チェンジ・タイプと言われている合成ダイヤモンドが市販されている。これは自然光(デーライト等)の下では緑黄色で、白熱光(ハロゲンランプ等)下でオレンジみが強く見えるものである(写真−1左から2番目)
このタイプは、1.
Ibタイプとして合成。2.高圧下で加熱処理。3.電子線を用いた照射処理。4.アニール――――の工程を経ていると推測される。おそらく、これら一連の工程によって形成されたH3センタによる緑みとN−Vセンタによる赤みが変色性に関与していると考えられる。
六面体の成長領域は、
Ibタイプの要素が強くN−Vセンタによる赤みとオレンジ色蛍光を発する(写真−2)。八面体の成長領域ではIaAの要素が強くH3センタによる緑黄色と黄色蛍光を発する(写真−3)。したがって、ハンディ・タイプの分光器においてもN−Vによる637,617,575nm およびH3による503nm の吸収が認められる。
また、六−八面体のセクター・ゾーニングが紫外線による十字型の蛍光むらとしてみられ、CLではさらにビジュアルに捕らえることができる(写真−4)

◇ピンク〜レッド
  
Ibタイプのダイヤモンドを電子線などを用いて放射線処理し、アニールすることによりピンク〜レッド(たいていは褐色み)にすることが可能である。したがって、この種の色調の処理石は、天然か合成かの起源の判断が必要である。
・ナチュラル・カラーのピンク〜レッド(極めて稀)はそれぞれの特徴によって識別が可能である(本誌1999年4月号参照)。
・処理と判断されたものについては石の起源について判断する。
・処理前は天然も合成も
Ibタイプであるため、先述したとおりインクルージョンや歪複屈折によって起源の判断が可能である。
・紫外線下では天然石(処理)は長波、短波ともたいてい一様なオレンジ色蛍光を発するが、合成石(処理)は一部にセクター・ゾーニングによる緑黄色とオレンジ色の色むらを示す。
◇ブルー(IIbタイプ)
ダイヤモンドの合成時に窒素ゲッターとなるTiやAlあるいはZrなどの元素とホウ素を添加することによって
IIbタイプのブルーを製造することができる。
したがって、導通検査や分光測定等によって
IIbタイプであることが識別できても天然起源が証明できた訳ではない。 
IIbタイプの天然ブルー・ダイヤモンドは、“タタミ・マット”構造と呼ばれるII型の天然ダイヤモンドに特有の歪複屈折が必ず認められる。これに対して合成ブルー・ダイヤモンドは、セクターに規制された不明瞭な歪が見られるだけである。
・合成ブルー・ダイヤモンドは、後述するほぼ無色と同様に金属インクルージョン(フラックスに使用される鉄)を内包するものが多い(写真−5)
IIbタイプのダイヤモンドは、紫外線下で長波、短波ともに不活性であるが、短波による照射後黄色〜橙赤色の燐光を示す。天然ダイヤモンドではこの燐光は通常数秒〜十数秒程度であるが、合成では数分以上に及ぶ。写真−1に示したサンプル(左から3番目)では、黄色がかった青白色の燐光が10分以上継続した。
・合成ブルー・ダイヤモンドでは、色に関与するホウ素のセクター依存性が強いため(八面体領域に入りやすい)色むらや蛍光むらが生じやすい。特にCLでは明瞭な合成特有のセクター・ゾーニングが観察できる(写真−6)

◇ほぼ無色
  ダイヤモンド合成時に窒素ゲッターを添加して成長速度を遅くして合成することにより、ほぼ無色のダイヤモンドを製造することが可能である。しかし、製法上の諸問題により現時点においては無色(カラー・グレードのD,E,F)でクラリティ・グレードの高いダイヤモンドを製造するのは極めて困難である。したがって、宝石市場で見られるほぼ無色のダイヤモンドはカラー・グレードがH以下(灰色や緑色の二次色をもつことが多い)で、たいていは金属インクルージョンを内包したクラリティ・グレードの低いものである。
・無色の天然ダイヤモンドはほとんどすべてが
IaタイプでN3センタを伴っている。合成ダイヤモンドでは、よほど特殊な処理をしない限りN3センタは出現しない。それゆえ分光学的な手法においてN3センタの確認ができれば天然起源の証明になる。
・このN3センタは紫外線下での青白色蛍光の原因となる。したがって、長波紫外線下で青白色蛍光を発するダイヤモンドは天然と考えられる。同様にピンク、すみれ、オレンジ色なども天然起源と考えられる。
・ほぼ無色の合成ダイヤモンドは
IIaタイプで紫外線下では不活性である。さらに短波紫外線下では明瞭な燐光を示すので合成起源の重要な指針となる。

◆おわりに◆
 ダイヤモンドの生成起源の判断には十分な予備知識とトレーニングが必要である。今、自分のデスク上にあるダイヤモンドが“合成であるかも知れない”という意識を維持することが重要である。


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