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カラリメーターによる計測結果
1998年 宝石学会(日本) 講演会から
 宝石用ダイヤモンドのカラー・グレーディングは、基準とするマスター・ストーンとの比較で行われている。人間の視覚的な色の記憶は、ダイヤモンドのような微妙な色を誤りなく再現して表現することは、まず不可能だからである。
 カラー・グレーディングの全国的な統一を図るため、GIA基準による統一マスターストンが我が国に導入されたことは記憶に新しいところである。しかしながら現実には、必ずしも完全に一致した結果が得られているとは限らない。この理由は、観察環境、照明条件や光源、観察者、対象石の三者相互間の幾何学的位置関係などの物理的諸条件が微妙に異なることのほか、最終的に判断を下す観察者個々の色覚能力に差のあることも考えられる。色を感知するのは、錐体と呼ばれて目の網膜に存在する、それぞれ赤・緑・青を感知する3種の色覚細胞である。すべてに健全な錐体を持つ人は2%程度と言われている。これらのことから、現状の人間の目と手によるカラー・グレーディングには、個人的主観的判断の入り込む余地が残されているものと思われる。この主観的判断を回避し、客観性を確保するための試みとして、だれがいつ、どこで見ても全く同じ結果が得られるよう、グレーディングの機械化が試みられてきた。全宝協がかつて開発した“ジェムカラー2”もこの一つである。最も新しいものとして、イスラエルの“Gran Computer社。のカラリメーターが、2〜3年前に我が国にも導入された。このカラリメーターの正確度・再現性など、実用性の可否につきテストを行った。
 この測定器は、冷白色光源からの光りを、順次、赤・緑・青の三つのフィルターを通過させ、光りファイバーを通じて、測定室の低部に位置しているダイヤモンド設置テーブルに導く。ダイヤモンドはテーブル面を下にして置かれ、光りはテーブル面からダイヤモンド中に入り、反射して外に出てくる。この光りが積分球内で集光されて計測される。計測された3色それぞれの吸収光がコンピューターで計算され、色の表示がされる。写真1がカラリメーターの全体像と、積分球内に設置されたダイヤモンドである。また測定結果は、写真2のように1グレードの2/5の幅で表示される。
 試験計測を、272個と150個のロットにつき行った。個々の石については、サイズ、クラリティ、カットとカラー・グレード(従来のマスター・ストーン法による)および蛍光性の有無を記録しておいた。
 272個の測定結果は、
合 致 169個 62%
上位にランク 32個 12%
下位にランク 71個 26%
272個
 なお、上、下にランクされたものの中には2ランク差のものもあり、上位に37ランク、下位に77ランク、差し引き40ランクの下位評価であった。すなわち、62%がマスターストン法と一致し、平均0.15ランク(40÷272)の低下であった。マクロに見れば、まずまずの結果であると思わる。第2回目の150個の計測結果も合致率63%、上位8%、下位29%とほぼ同様な結果であり、平均0.22ランクの下位評価であった。
 測定結果を、カラー、クラリティ、カットとサイズおよび蛍光の有無別に分析した。カラー別では、Dカラーでは下位評価の比率が高く(50%以上)、E、F、Gカラーでは、かなり正確な評価(合致率80%)がされている。クラリティ、カット別では、目立った傾向は認められない。サイズ別では0.3ct以下の石は、かなり低く評価される傾向を示している。強い蛍光を示す石では、上位にランクされる石の比率が高くなっている。
Dカラー石を除けば、合致率80%、上位ランク18%、下位ランク2%であった。蛍光性の強い石は高く評価されることを示している。
 ただ、上記の合致率はあまり意味がない。カラリメーターには、その判定基準を自由に設定できる機能が組み込まれているからである。問題は、上位あるいは下位にランクづけされる測定結果の散らばり具合(備の実用性の可否の判断に極めて重要である。このことから、数個の石につき各々15回〜30回の繰り返し測定を行った。
 一例として、Eマスター・ストーンの結果を図1に示した。1グレードを20分割し、それぞれのポイント上の計測数をカウントし、グラフ上にプロットした、あるグレードになる確率である。この諸点を結んだ図形は、ほぼ正規分布を示している。正規分布として、平均値と標準偏差を求めた。このグラフに見られるとおり、平均値MはちょうどEを示しているものの、標準偏差σ(シグマ)がおおよそ0.2グレードとなっている。99%の確率で測定結果が得られる範囲は、したがって±2.5σであるから、±2.5×0.2=±0.5グレードとなる。すなわち1グレードの散らばりとなる。
 このほか、D、E、F、IとKカラーの5個の石についても各々30回の計測を行った。特殊な結果の出たKを除き、それぞれに標準偏差を求めた。標準偏差は、0.19から0.23グ
レードの範囲であった。前述の例のごとく、99%の確率での測定値の分布は、したがって0.9から1.2グレードに分布することになる。
 グレーディングに持ち込まれる石のカラー分布は、Dのものを別としてほぼ均等であるはずである。ちなみにDカラーでは、これ以上のグレードが存在せず、Eに近いものの分布が多いものと思われる。Dカラーの下位評価比率が高いのもこのためであろう。したがって、あるグレードの中央に位置する石では、上のこは、上位または下位にグレードされる結果が得られる場合があることになる。標準偏差が0.2グレードの場合、1グレード内に納まる確率は、ほぼ83%と計算される。当然のことながら、上下のランクヘの分布確率
は、均等に8.5%ずつとなる。ところが、さきに示した結果では、下方へのランク比率が26〜28%で、上方のそれの8〜12%より多くなっている。Dカラーの石では、上方にランクされるものはないから、Dカラーを除外すれば、この差は幾分縮小されることになる。
 上下にランクされる比率を減らし、より再現性の高い結果を得るためには、前述の分散の度合い、偏差値σを小さくしなければならない。仮りに、σ=0.1程度に半減すれば、99%の確率水準で、±0.5グレード内の測定結果分布となる。したがって合致率は、ほぼ90% になる。具体的には、カラリメーターの表示を現在の2/5から1/5にする必要があるということである。
 結論として、このカラリメーターは、マクロに見れば、現在のマスタ・ーストーン法に比ベ0.1〜0.2グレードの下方評価であり、まず許容水準と考えられる。しかしながら、Dカラー相当の石については、当然のこととして下方評価確率が高く、たとい再現性を高めたとしても、なお問題が残ることになる。
 その他の石についても再現性に問題があり、この改善なくしては今ただちにこのカラリメーターの使用は不可と判断される。


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