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結晶モデルにおいては生前と原子が配列しているが、現実の結晶には必ず不均一性が含まれる。そして結晶の不均一性の分布状態や密度差は、成長時および成長後の履歴と密接に関係しており、その観察からさまざまな情報を得ることができる。殊に結晶成長時の環境相を反映した不均一性は、起源を知る上での大きな一助となるはずである。従来から宝石鑑別の上で、低倍率の光学顕微鏡下で捕らえられるインクルージョンあるいは成長構造、つまりマクロな不均一性の観察は、重要な課題の一つであった。しかし環境相を考察する上では、格子オーダーの不均一性までを含む、より詳細なデータを得るための手法と、それらの発生メカニズムの理解が必要となる。ここでは光学顕微鏡下で、そしてレーザー・トモグラフィあるいはカソード・ルミネッセンス法(CL法)を用いて、宝石中に観察される代表的な不均一性を例に、それぞれの成長履歴を探る。 |
一方、短期間で育成される合成では、マイナーな分域さえも途中で消えずにそのまま成長してゆく。その結果それぞれの分域境界が単純な幾何学的パターンになる。Fig-7の住友工業製ダイヤモンドのCLでは、{100}および{111}セクターが中心から逆ピラミッド状をなす模式図どおりの成長分域が観察できる。また、Fig-8はロシア製ダイヤモンドのCLであるが、強いオレンジ色に発光する中心の四隅から外側に向かって伸びる{100}セクターと、発光の弱い{111}セクターの分域境界が単純なパターンとして見られる。 b.コランダム Fig-9は天然ブルー・サファイア のレーザー・トモグラフィである。特に強い発光部分は“砂時計構造”と称される組織で、断続的な結晶成長の結果生まれた成長分域で、この領域には特に不純物が集中しているために強く発光する。ただし、光学顕微鏡による通常の拡大下でこの構造を発見することはできない。 C.エメラルド、トパーズなど各種宝石 ギザギザと折れ曲がるように伸びる成長線は、低倍率の光学顕微鏡下でさえも、多くの宝石種で観察することができる。Fig-10は、トパーズ中の例である。“鋸刃状”と称されるこの特徴的な成長線の正体も、また成長境界である。断続的な結晶成長の過程で、形態的な重要度の高い、通常であれば安定な界面が、不純物の吸着などで成長できなくなることがある。これを修復するために、重要度の低い面が一時的に現れ、その後の成長に伴い、また重要度の高い面が現れる。これが繰り返され、その時の成長分域境界が“鋸刃状”になる。先のトパーズをレーザー・トモグラフィで観察すると(Fig-11)、鋸刃状の境界から発光強度に違いがあり、それぞれが異なる分域であることが明らかになる。 セル構造 Cell structure ある種の合成石の中で、同一方向に細長く伸びるセル状組織が観察されることがある。殊に熱水法の各種合成石には現時点まで必ず見られる組織である。エメラルドの“犬牙状”(Fig-12)やルビーの“さざなみ状”と称される成長線(セル構造を伸長方向から見たもの)やクォーツの“流れ模様”(fig-13)などがその例である。また、結晶引上げ法で合成されたルビーなどにも同様の組織が見られる(Fig-14、15)。 しかし両者では、その発生原因が相違している。まず熱水法では、成長速度が高い一方で、溶解を受けやすいラフな面が種板として用いられることに原因する。結晶成長の初期に生じる種結晶表面の溶解により、そこに吸着した不純物からディスロケーションが発生する。それらを中心に発生した成長領域がセル構造で、上述の成長模様はこれらのセル境界である。合成水晶中にこの様子をレーザー・トモグラフィで捕らえたのがFig-16で、ディスロケーションとセルの方向が一致している。 他方、結晶引上げ法で育成された結晶は、外見的には単結晶に見えるが、実際には多数の小ブロックの集合である。これらの結晶の境界部、つまり粒界には不純物が集中する。不純物濃度が高くなれば融点が下がり、その結果、粒界付近の成長が遅れる。融液成長した合成石中のセル構造は、このようにして形成される。 |