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本年度6月に開催された「宝石学会(日本)」の講演会で、昨年話題となった“放射能を帯びたキャッツアイ”と今後業界内で問題となることが懸念される“オーバー・グロース・コランダム”について報告を行った。ここでは紙面の都合により、“放射能を帯びたキャッツアイ”についての内容を詳述する。“オーバー・グロース・コランダム”についてはGemmology1998年1月号に紹介済みである。 |
核種分析は、Ge半導体検出器を使用して、10,000秒間γ線計測を行った。得られたγ線スペクトルを図に示す。 46Sc(半減期84日)と59Fe(半減期45日)の明瞭な光電ピークが認められ、これらが主たる放射線各種であることがわかった。また、54Mn(半減期312日)、60Co(半減期5.3年)および182Ta(半減期115日)などのピークも認められた。 これらの核種は、物質を中性子で照射したときの原子核反応(中性子捕獲反応など)で生成することはよく知られている。したがって、このキャッツアイは原子炉の中性子で照射されたものと考えられる。 ◆ 中性子照射実験 クリソベリル・キャッツアイが中性子照射により、 1 どの程度色が改変されるのか 2 すべてのものが放射化するのか を確認するために、立教大学の原子炉を用いて中性子線の照射実験を行った。条件と結果を表に示す。実験にはオリッサ産のクリソベリル・キャッツアイの入手が間に合わなかったため、市場性の高いスリランカ産を用いた。 キャッツアイの色は照射前(写真2)と照射後(写真3)では一部のものが多少褐色みが強くなる程度で、あまり変化は見られなかった。しかし、すべてのサンプルは放射化した。これは、クリソベリルには必ず相当量のFeと微量のScが含有されているためである。 これらのことから、クリソベリル・キャッツアイはげんしろで中性子線を照射しても、期待される外観の改変効果よりも放射化するリスクのほうが大きいと考えられる。したがって、今回の一連の騒ぎとなった“放射能キャッツアイ”ひ、実験的に照射されたものが違法に市場に流通したもので、今後一般的なトリートメントとしてクリソベリルが照射される可能性は低いと考えられる。 ただし、クリソベリル種以外の宝石が同様に改変効果を期待して原子炉で照射され、万一放射化してしまったものが市場に流出する潜在的な危険性は、考慮しておくべきであろう。 宝石のγ線スペクトル 中性子線照射実験結果 |