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今月の鑑別室から 1998.12
貴重さんごと異なる種類のさんご
従来の貴重さんごと呼ばれるものと異なる種類のさんごが、市場に出回っている。これらは、生物学的には別のグループのさんごであり、その構造、希少性の面からも、呼称を区別する必要がある。

さんごは3月の誕生石として知られるように、私たちにはごく一般的な宝石です。ただし、ここで言うさんごとは、宝石名としての“さんご”であり、生物種名としての“サンゴ”ではありません。まずは、さんごの起源について簡単にお話しします。
 サンゴは刺胞動物に属する、れっきとした動物です。刺胞動物の仲間には、イソギンチャクやクラゲがいます。イソギンチャクやクラゲとの形態的な違いとして、サンゴは炭酸カルシウム、角質で出来た固い骨格を持つということが挙げられます。この骨格(骨軸)部を足場としてその表面に、小さなイソギンチャクのような形をしたポリプ部と肉質(共肉)部が覆い、樹枝状等の群体を形成します。その外観から、昔は、海中に生える植物と考えられていたこともありました。宝石として加工されるのは、表面のポリプ部と共肉部を取り去った、固い骨軸部分なのです。サンゴのなかには、私たちが宝石として珍重している種類以外にも様々な形態・色調を持ったものがいます。
 現在、市場で目にするサンゴの種類には次のものがあります。
1.サンゴ類(Coralliidae)
 アカサンゴ、モモイロサンゴなど炭酸カルシウムで出来た緻密な骨軸を持つ。宝石として一般的に利用されるので、俗に“貴重さんご”、“宝石さんご”と呼ばれる。
 鑑別表記:天然赤さんご または 天然さんご
2.クロサンゴ類
 ウミカラマツに代表される黒色の角質で出来た骨軸を持つサンゴ。
 鑑別表記:天然黒さんご
 最近は、無色または黒色材のコーティングが行われている商品も多く、この場合は処理扱いとなる。
3.全軸亜目さんご類
 白い石灰質と黒い角質が交互に連なった骨軸を持つ。部分的にイリデッセンスを示し、レインボー・コーラルの商品名で販売されている。
4.イソバナ類
 貴重さんごに一見似た形態。炭酸カルシウムの骨軸を持つが、その表面には小さな穴が散在する。構造上の脆さを補うため、充填が行われていることが多い。網目状の濃淡が見られる。
1.2.は、一般的な種類のさんごですが、3.4.は、最近、徐々に増えてきた種類のさんごです。特にイソバナ類は、貴重さんご(1.のサンゴ類)に比べ希少性、骨軸構造などの点で異なる種類のサンゴであり、単に「天然さんご」という表示では、一般消費者が誤解を招く恐れがあります。無論、鑑別書の表記においても種類ごとのさんごに呼称を求められます。ただし、生物学的なサンゴの分類は生体または原木の状態で行われており、商品として骨軸の一部を加工した状態から種類を同定するには限界があります。このような生物起源の宝石素材の分類および呼称については、専門の学識者と協議の上、業界としてのルーリングを早急に確立する必要があるでしょう。


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