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今月の鑑別室から 1998.10
ロシア製フラックス合成スピネル
 最近、ロシア製のフラックス合成スピネルを検査する機会を得た。
これらは、特徴的なインクルージョンが認められない場合は、一般鑑別検査では識別が困難で、精密な化学分析や赤外分光等の研究室的手法が必要である。

ベルヌイ法の合成スピネルは、1920年代からファセット加工され、主としてダイヤモンドやアクワマリン等の代用石として販売されてきた。これらは化学組成の相違による特性値bタビー消光など顕著な宝石学的特徴を有するので、鑑別上問題となることはなかった。
フラックス合成スピネルは、1800年代半ばにコランダムを合成しようとして偶然に造り出されているが、1989年ごろまで商業的利用はなかった。今日までフラックス合成スピネルは、ロシア製のブルーおよびレッドが市販されており、これらは特性値が天然石と完全に重複しており、鑑別上最も困難なアイテムの一つとなっている。
さて、今回ご紹介するのは、フラックス合成としては一般的とは言えない淡ピンク色あるいはバイオレット系のスピネルである(写真参照)。これらは、おそらく実験的に製造れたもので、現在のところ市場性は低いが、外観が天然石と酷似するため注意が必要である。
サイズは0.130ct〜0.623ctの範囲であった。屈折率は、淡ピンク色のもが1.712〜1.713、バイオレット系のものが1.715であった(それぞれトプコンの屈折計による)。
 偏光下では顕著な歪みは認められなかった。長波紫外線下では淡ピンク色のものはオレンジ色蛍光を、バイオレット系のものは暗赤色蛍光を発した。短波紫外線下では、それぞれ長波と同様のやや弱い蛍光を発した。
 ハンディ・タイプの分光器では、顕著なバンドやラインは認められなかった(分光光度計による測定では、バイオレット系のものに690、637、470および380nm付近に弱い吸収が認められた)。拡大下では、特徴的なインクルージョンは認められなかった。
 したがって、ここまでの一般鑑別検査においては明確な合成の手掛かりが得られないため、蛍光]線による組成分析と赤外分光スペクトルを測定した。その結果、すべてのサン
プルにおいて、主成分のMg、Al以外に微量のK、Ca、Cu、Zn、Gaが検出された。また、淡ピンク色のものからはFeが、バイオレット系のものからはCrとNiが検出された。おそらく、これらの元素が着色に関与していると思われる。天然スピネルにおいてNiが着色に関与することは珍しいため、相当量のNiやCuが検出された場合、合成の可能性が高いと言える。赤外分光スペクトルでは、当研究室におけるこれまでの研究から、フラックス合成スピネルに特徴的と考えられるスペクトルが、すべてのサンプルから得られた。


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