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今月の鑑別室から 1998.08
天然ナンブライト(?)
天然ナンブライトとして販売されていた石を5ピース検査した。これらはすべてロードナイト、およびロードナイトとクォーツが混在したものであるということがわかった。以下に、その詳細について報告する。

ナンブライト(Nambulite)は和名を南部石という。この名称は、東北大学の南部松夫博士のマンガン鉱物・鉱床に関する永年の研究業績に因んで与えられたものである。ナンブライトは1972年、地質調査所の吉井守正博士らにより、岩手県船子沢鉱山の変成層状マンガン鉱床中に産する、リチウムを主成分とする初生鉱物として最初に記載されている。
 詳しい結晶構造が解析された結果、ナンブライトはロードナイト・グループに属する鉱物で、SiO4四面体鎖の単位は、SiO4四面体5個である。SiO4のつくる鎖とMn多面体のバンドの並び方から、ロードナイト・グループの鉱物のなかでもロードナイトよりもバビングトナイトの構造に近いと考えられている。
 化学組成は(Li,Na)Mn4[Si5O14(OH)]で表される。その後、岩手県田野畑鉱山産の縞状構造を持った低品位のマンガン鉱石中にNaの含有量が多いナンブライトが見付かり、ナトロナンブライト(曹達南部石)という別種の鉱物として記載されている。
 これらのナンブライトおよびナトロナンブライトの宝石品質のものは極めて珍しく、1976年にナミビアのKombat鉱山産の透明な無傷の結晶が報告されている。
 さて、最近ナンブライトとして販売されていた石を5ピース入手し、検査した。これらは1ct〜10ctで、すべてピンク色半透明であった。うち1ピースはツーソンのミネラル・ショーでオーストラリア産として、1ピースは5月に大阪で行われたミネラル・ショーでオーストラリア産として(写真参照)、残り3ピースはバンコクで販売されていたものである。これらを分析した結果、ツーソンで入手したものはほぼ純粋なロードナイトで、他のものは4ピースともロードナイトとクォーツが混在したものであることがわかった。ロードナイトとナンブライトは、ともにロードナイト・グループの鉱物で特性値がほぼ重複しているため、両者の明確な識別は一般鑑別では困難である。したがって、ナンブライトの可能性のある石(ナンブライトは橙色みがある)については、元素分析や、場合によっては構造解析が必要となる。

 ここ20年の間に新種の鉱物の発見、分析技術の向上などで、ロードナイトの類似石がいくつか知られるようになっている(例えばバスタマイト)。ナンブライトもその一つであるが、最近オーストラリア産として販売されている橙色みのないピンク色のナンブライトは、ロードナイトあるいはクォーツ/ロードナイトの可能性が高い。


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