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今月の鑑別室から 1998.07
中国製熱水合成エメラルド
研究用に入手した中国製熱水合成エメラルドの特徴を報告する。今後、宝石取引において遭遇する機会が増加すると思われるので、注意が必要である。

中国では1987年ごろから熱水法による合成エメラルドが製造されており、1993年から市場供給されている。昨年1年間で、およそ7500ctの原石が製造されており、今後さらに供給量が増加すると思われる。熱水法の合成エメラルドは、バイロンおよびロシア製のものがー般的であるが、今回紹介する中国製エメラルドは前者の特性に近似する。
以下に、宝石学的特徴を示す。
 今回入手したサンプルは、写真-1に示すようにエメラルド・カットが施されたルースで、0.676ct(サンプル-1)と0.430ct(サンプル-2)である。屈折率は2ピースとも1.569
-1.573(トプコンの屈折計を用いてナトリウム光源で測定)であった。
この数値はコロンビア産の天然エメラルドのやや低めのものと重複するが、熱水合成エメラルドのバイロン・タイプとほぼ一致する。中国製熱水合成エメラルドは、金の打ち貼りをしたオートクレーブを用いて、従来のメーカーより高い圧力下で合成されていると言われている。合成時の圧力が高いほど製造されたエメラルドの屈折率も高くなるが、今回入手したサンプルは、バイロン・タイプとほとんど差異はなかった。しかし今後、これらよりも高い屈折率のものが出現する可能性のあることを記憶しておくべきである。
 長波紫外線下では2ピースとも赤色蛍光を発し、短波紫外線下では暗赤色蛍光を発した。カラー・フィルター下では鮮やかな赤色を示した。このような蛍光性やカラー・フィルタ
ーでの反応は、着色元素の種類や量に影響する。蛍光]線装置にて組成分析を行った結果、サンプル-1は着色元素としてクロムと微量のバナジウムと鉄が検出された。サンプル
-2からはクロムのみが検出された。
 近赤外領域の分光測定では、2ピースとも熱水合成特有のスペクトルが得られた。
拡大検査では、2ピースとも写真-2に示すように、熱水合成特有のさざなみ状成長線が観察された(この成長構造の確認が、一般鑑別では最も重要な識別特徴となる)。サンプル-1では、側面方向から無色の天然べリルの種結晶が認められた(写真-3)。この種板はテーブル・ファセットにほぼ平行であるため、このような場合、フェース・アップでの観察では見逃しやすい。したがって、種板中のインクルージョンのみを見て、短絡的に天然石と判断する危険性がある。
 以上のように中国製熱水合成エメラルドは、バイロン・タイプとはぼ同様の特徴を有しており、注意深く対応することで充分識別可能である。


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