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今月の鑑別室から 1998.04
ロシア製 熱水合成アクワマリン
 最近、ロシア製熱水合成アクワマリンを研究用に入手した。今後、国内市場においても遭遇する可能性があると思われるので、以下にその特徴を報告する。

 以前から、ロシアでは熱水法によるベリルが盛んに合成されており、エメラルド、レッド・ベリルなどは既に相当量のカット石が国内市喝に持ち込まれている。他の色ではペリドートのような黄緑色、タンザナイトような青色などが実験的に製造され、一部、原石やカット石が販売されていた。今回入手したのは写真-1に示すようなアクワマリンのカット石で、ツーソン・ミネラル・ショーで販売されていたものである。製造坂売は Siberian Branch of the Russian Academy of SciencesとPinky Trading Co.,Bangkokの合弁企業であるTairusである(Tairusは合成ダイヤモンドの販売でもよく知られている)。
 以下に、これらの宝石学的特徴を紹介する。
 ステップ・カットが施されたものは0.769ct、ミクスト・カットのものは0.687ctであった。色調はアクワマリンに典型的な海水青色で、肉眼では天然石と区別はつかない。屈折率はトプコンの屈折計で2ピースとも1.570−1.578で、複屈折量は0.008であった。比重は2.70−2.71で、これらの特性値は完全に天然石と重複する。
多色性は二色性、明(無色:海水青色)で、紫外線下では長波・短波とも不活性であった。カラー・フィルターではアクワマリン特有の黄緑色であった。驚いたことに、紫外−可視額域の分光光度計によるスペクトルも天然アクワマリンと全く同様であった。ここまでの検査では合成を示唆するデータは何も得られないが、以下に示す特徴が識別のポイントになる。
1)拡大検査によるシダの葉状成長線(写真-2)。この成長線は、ロシア製熱水合成ベリルの特徴であり、鑑別上最も有効な手掛かりとなる。
2)近赤外領域の分光スペクトルでは、2480nm付近に天然べリルにはない吸収が認められる。
3)蛍光X線による組成分析では、天然ベリルに一般的なNa、Cs、Zn、Rbなどの微量元素が検出されない。

 今後、べリルの合成石にはロシア製アクワマリンも付け加え、慎重に対応しなければならないであろう。


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