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今月の鑑別室から 1998.03
パライバ・トルマリン
通称 “パライバ・トルマリン”と呼ばれている魅力的な宝石がある。今回は、この石の特徴について報告する。(写真)

1989年、世界の宝石マーケットに、これまでに例のない色調のトルマリンが登場し、人々を驚かせた。これれは“フローレッセント”、“ネオン”あるいは“エレクトリック”などと形容される極めて彩度の高いブルー〜グリーンで、その産地からパライバ・トルマリンと通称されるようになった。パライバは、ブラジル北東部に位置する州の名称である。1985年にパライバ州のMina da Batalhaで古いタンタライトの鉱床が再開され、この地で1987年夏ごろに、後にパライバ・トルマリンと称される鮮やかな色のトルマリンが発見された。
トルマリンは複雑な化学組成を持つ固溶体鉱物で、一般に8種の端成分が知られている。パライバ・トルマリンは、このうちエルバイトに近い化学組成を有している。パライバ・トルマリンの特徴は彩度の高い色調であるが、この色の原因は含有される銅イオンにある。銅イオンが着色原因として機能するとターコイズ・ブルーとなる。マンガン(2価)とチタンあるいは鉄とチタンが作用するとグリーンとなり、マンガン(3価)が機能すると紫〜ピンクとなる。
通常は、マンガン(3価)はパライバ・トルマリンの彩度を落とす原因になるため還元雰囲気で加熱され、紫みが取り除かれている。このように銅、マンガン、鉄およびチタンなどの遷移元素の組み合わせと、場合によっては加熱により彩度の高いグリーン〜ブルー、時にはエメラルド・グリーンやタンザナイト・ブルーの特徴的な色が生まれる。
 パライバ・トルマリンという呼称が広く普及しているが、日本国内のルーリング(JJA/AGL)では、鑑別書には産地名を記載できないので、“パライバ・トルマリン”という鑑別結果は表記されない。科学的手法によってパライバ産であることを同定するためには、分光光度計によるスペクトル解析と蛍光X線による元素分析が必要となる。パライバ産のトルマリンは、銅の鉱化作用と関連した特殊な花崗岩質ペグマタイト中に産しており、着色原因ともなる相当量の銅およびマンガンと微量のビスマスを必ず含有している。現在のところ、他の産地のトルマリン中にこの3元素の含有が報告された例はない。
 パライバ・トルマリンは、現在、Batalhaからの産出は少なく、連続した地質を持つパライバ州北部のリオグランデ・ド・ノルテ州から産出されているようである。


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