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ソーダライトの変種で“ハックマナイト”と呼ばれるドラマチックなカラー・チェンジを示す石がある。最近、この希少石を鑑別する機会を得たので、以下に、この珍しい色変化の性質と宝石学的特徴について報告する。 ハックマナイトはソーダライトの変種で、少量の硫黄(S)を含有す。地中にあるときは赤紫色であるが、採掘され、光に当たると、ほぼ無色にまで退色してしまう不思議な石である。ロシアのコラ(Kola)半島の霞石閃長岩中から初めて発見されている。V.Hackmanに因んで“ハックマナイト”と命名された。 ソーダライトは準長石の一種で、等軸晶系に属する鉱物である。紺青色を呈するものはそれ自身が宝石素材となるが、ラピスラズリの構成鉱物としても知られている。ソーダライトの化学組成はNa4Al3Si3O12Clで表されるが、塩素(Cl)を置換して少量の硫黄(S)を含有することにより赤紫色を呈することがある。これがハックマナイトである。ハックマナイトの赤紫色は、先述のとおり露光することにより劇的に退色する。この性質はK.Nassauにより次のように説明されている。
Clを置換することによって形成されたS22−紫外線を照射することによりS2−+e−となる。S2−ホール・センターは400nmを中心に吸収を起こす。また、e−がハロゲン空孔にトラップされるとFセンターを形成し、これが530nm中心に吸収を起こす。 |
これらの吸収帯のコンビネーションにより、ハックマナイトの赤紫色を生じる。しかし、これらのカラー・センターは不安定で、露光することにより破壊される。すなわち、ハックマナイトの赤紫色は露光することによりドラマチックに退色する。さらに不思議なことに、退色したハックマナイトに紫外線(長波でも短波でもよい)を照射すると、赤紫色が復元される。これらの退色〜色の復元の変化は何度でも繰り返される。
このような性質は“ファトクロミズム”と呼ばれている。 さて、今回鑑別で遭遇したハックマナイトは0.152ctのルースで、屈折率が1.480、比重が2.34であった。鑑別時には、ほぼ無色透明石であったが(写真-1)、フォトクロミズムの性質を確認するために長波紫外線を1分ほど照射すると、赤紫色(2.5RP5.5/8)に変化した(写真-2)。しかし、この色は数分後に退色し、無色に戻った。この色変化のサイクルは何度も何度も繰り返された。 |