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円形ブリリアント・カットのシンメトリー―その立体的見方の必要性―
1997年 宝石学会(日本) 講演会から
ダイヤモンドの宝石としての価値は、その高い屈折率による光学的効果に負うところ大きい。円形ブリリアントカットでは、この効果を最大限に引き出すべく、カット形状、すなわちプロポーションが設定されることになる。このプロポーションは、カットを構成する各面の寸法や角度の数値で示されるが、これら各面の相互位置関係や同種面の表示数値の散らばり具合、広い意味でのシンメトリーもまた光学的効果の良否に大きく関係する。円形ブリリアント・カットのプロポーションは、通常、ガードル径を基準とし、これに対するテーブル幅、ガードル厚さ、パビリオン探さ(パビリオン角度)およびクラウン角度で示されている。これらの数値では17面のシングル・カットの図面を描くことができるものの、57面のブリリアント・カットは不可能である。
辛辣に言えば、現在のカット評価基準はシングル・カットのそれであり、決して57面のブリリアント・カットのそれではない。クラウン側のスター面(以下ST面)の先端位置T、スター・ポイントとパビリオン側のボトム・ブリリアント面(BB面)の先端位置S、笹目点が指定されていないからである。これらの位置は非常に重要である。この位置により、クラウン側ではST面とアッパー・ガードル面(UG面)の大きさと角度が変化し、パビリオン側ではBB面の大きさと角度が変化することになるからである。この変化は、当然、光学的効果に著しい変化をもたらすことになる。ここで増上慢のそしりを受けることを覚悟してあえて言えば、テーブル、パビリオシおよびベゼル面のみ(面積的に全体の40%程度を占める)で計算を進めたトルコウスキーの理論は、必ずしも正しいとは言えないことになる。
 ここで、図1のようにスター・ポイントの位置をスター数値W=m/J、笹目点の位置を笹日数値Z=n/rで規定すれば、それぞれの角度はWとZの関数として容易に求めることができる。
 テーブル幅57%、クラウン角度34.5度、パビリオン角度40.75度の場合の計算結果を示すと、
W ST面角度 UG面角度
0.4 18.0° 39.9°
0.5 21.4° 41.1°
0.6 23.4° 42.9°

Z BB面角度
0.75 42°
0.78 41.9°
0.83 41.7°
それぞれ8か所あるT点とS点のWとZの数値がそれぞれに異なれば、当然、上の計算例のように角度が変わり、歪んだ反射パターンが観察されることになる。エクセレントに分類されるカットでも、WとZが微妙に異なっているため、このような例が生ずることが多い。具体的に言えば、歪んだ二重テーブルであり、最近流行のハート・アロー・パターンの崩れた形状である。写真はこの一例である。対比のため完全な例も示した。
 さらに、問題なのはガードルの厚さである。ガードル厚さは図2のように波を打つが、その16か所の山の頂点は、本来ならばテーブル平面に並行な同一平面上に位置するはずである。この山はのAとBで示した二つに分類される。ベゼル面とパビリオン面が相対する部分Aと上下ブリリアント面の接する部分Bである。現実には、エクセレントに分類される石でも、各8か所のAとBがそれぞれに異なり、全く不鋭別に波を打っている場合がある。このようにガードル厚さが部分的に異なると、どのような影響が生ずるかを計算した。厚さの変化は様々であるが、基本的に四つに分類される。図2のB点のクラウン側、パビリオン側が、それぞれに厚くなった場合と薄くなった場合である。これらを組み合わせれば、すべての場合が表現できることになる。計算結果によると、クラウン側UG面、パビリオン側BB面の角度が変化するばかりでなく、その角度の方位が変化することになる。例えばパビリオン面とそれに隣接するBB面の角度方位は、正常ならば11.25度ずれているはずであるが、これが8度とか14度になるということである。
 具体的な計算結果の一例を示すと、パビリオン側B点のガードル厚さ1%の増加は、Z=75%、パビリオン角度40.75度の場合、BB面角度0.5度の減少(41.9°⇒41.4°)、角度方位3.35度の減少(11.25°⇒7.9°)、クラウン側ではW=0.5、テーブル幅57%、クラウン角度34.5度の場合、UG面角度−2.51度(41.11°⇒38.6°)、角度方位−3.65度(11.25°⇒7.6°)となる。
通常、方−ドル厚さ1%程度の部分的な変動は許容範囲とされ、エクセレント・カットと評価される石でもまま見られるところである。カット構成面の角度と方向が、ある箇所で変化するわけであるから、当然、反射パターンは不規則なものとなる。

 このように、ブリリアント・カットのシンメトリーは、単にプロポーション数値に基づく平面的な面の配置で判断すべきでなく、スター点、笹目点とガードル厚さなど立体的3
次元的な要素を勘案すべきである。このためには、3次元的な要素が反映される反射パターンを加味した判定基準を考慮してもいいのではなかろうか。


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