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'97年宝石学会日本講演から

合成アレキサンドライトの製法およびメーカー別の特徴

福島秀明

◆はじめに◆
近年、ラボでの合成アレキサンドライトの遭遇件数が増加しており、その中には新しいタイプの合成石もある。
これらの宝石学的な特徴については、昨年の宝石学会において報告済みである。
そこで本報告では、製法及びメーカー別に合成アレキサンドライトを分類し、これらと天然石をエネルギー分散型蛍光X線装置
(EDXRF)及びカソード・ルミネッセンス法で測定、観察した結果を行った。
組成分析は日本電子(株)製のJSX−3200エネルギー分散型蛍光X線装置を用いて行った。

まず蛍光X線による元素分析結果を報告する。

◆組成分析特徴◆
【天然アレキサンドライト】
Ti,V,Cr,Fe,Ga,Mn,Snが微量元素として検出された。
【合成アレキサンドライト】

●フラックス法
天然石同様溶液からの成長であるフラックス法は、現在、クリエーティブ・クリスタル社製(アメリカ)とロシア製が知られている。
後者は昨年から鑑別に持ち込まれるようになった最も新しい合成石で、トリリングを示し、天然石に酷似したインクルージョンが存在するため鑑別上特に注意が必要である。
@クリエーティブ・クリスタル社製
Cr,V,Snが検出された。
Aロシア製
Cr,Fe,Ga,Ge,Bi,Moが検出された。1995年の国際宝石学会において、カール・シュメッツァー氏から、ロシア製フラックス法合成アレキサンドライトには
Mo,Bi,Geの化合物が溶剤として使用されているという報告があり、今回の分析結果とも一致する。
次に融液起因の合成法2種3メーカーの合成石の測定結果を報告する。

●結晶引き上げ法
@京セラ製
V,Crが微量元素として検出された。
Aロシア製
V,Crが微量元素として検出された。
一昨年から市場で見かけるようになった新しい合成石でインクルージョンが天然石と酷似しており鑑別上の注意が必要である。

●フローティング・ゾーン法
○セイコー製
Cr,Feが検出された。
以上、組成分析の特徴として天然石からは、多くの決まった微量元素が検出されるのに対し、
合成石からは、着色元素としてのV,Cr,Feしか検出されない。
ただし、ロシア製フラックス法合成石は、天然石と一部重複する元素を検出するが、天然石には存在しない、Bi,Moが検出されることが識別ポイントとなる。《表−1》
次にカソード・ルミネッセンス法による天然石と各種合成石の成長履歴の特徴をまとめる。

◆CL像特徴◆
【天然アレキサンドライト】

◆スライドー1
複雑な累帯構造と分域構造が天然のカソード・ルミネッセンス像(以下CL像と略します)特徴である。
写真−1は、複雑な累帯構造を示す典型的な天然石のCL像特徴である。
クリソベリル種に典型的な、角度をもって平行に繰り返される成長構造も観察できる。成長縞は不規則な間隔で平行に分布している《写真−2》
顕微鏡拡大下、液浸状態で、成長境界の接面が段状成長線となって見える部分《写真−3a》をCL法で観察すると、異なる発光分域を示す《写真−3b》
【合成アレキサンドライト】

●溶液からの合成法
クリエーティブ・クリスタル社製フラックス法合成石は、顕微鏡拡大下、液浸状態で、等間隔で直線的な成長縞が確認できる《写真−4a》
これをCL法で観察すると、成長分域がたいへん明瞭なCL像として現れる《写真−4b》。成長縞の間隔はやや広くクリエーティブ・クリスタル社製の特徴と言える。
一方ロシア製は、同様に等間隔で直線的なCL像を示すが、その間隔は非常に密である《写真−5》。このことは両者の製造環境に関係があると推測される。

●融液からの合成法
京セラ製結晶引き上げ法合成石を顕微鏡拡大下、液浸状態で観察すると、融液からの合成を示唆するゆるやかな曲線状の色帯が観察される《写真−6a》
CL像では,これに対応する成長縞が観察される《写真−6b》
やや不鮮明なコントラストだが、よく見るとわずかに曲がっているのがわかる。
方向によっては、ほとんど直線に見えることもあり、天然石の平行状成長縞と誤認しないように注意が必要である。
写真−7はロシア製結晶引き上げ法合成石のCL像である。間隔の狭いものから広いものまであるが、これは結晶育成の制御技術の違いと思われる。
最後にフローティング・ゾーン法である。
焼結した原料を融解して結晶させるこの方法では、結晶構造に一定の規則性がなく、そのため拡大下にて直線的から糖蜜状、脈理状まで
変化にとんだフローラインが観察される《写真−8a》。 
CL像は、フローラインに一致したパターンを示す《写真−8b》
このように、フローティング・ゾーン法の特徴である、成長構造に従った、不規則で、分域的な歪みを鮮明に確認することができる。
以上の結果を表―2にまとめる。
このように、CL法は結晶成長の情報を得るための有効な手段として、通常の拡大下で観察される天然及び合成石の成長構造が、
より明瞭に捕らえることができることは、識別上大きな一助となる。
アレキサンドライトは、貴石の中でもルビーと並んで合成石に遭遇するケースが多い種類であるとともに、これからも
新しい種類の合成石が供給されることが懸念される。
今までの一般的な鑑別法だけでなく、組成分析や、CL法等を組み合わせた鑑別技術の確立が一層必要となる。


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