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宝石学会(日本)'97講演から

最近、鑑別で遭遇する合成ルビー

全国宝石学協会 北脇 裕士

ルビーの天然・合成の識別は鑑別業務において最も重要な作業のひとつである。
新しいメーカーの出現、さらには合成石に施された加熱などは鑑別機関にとって新たな課題となっている。
本報告では最近、鑑別で遭遇する合成ルビーを製法およびメーカー別に分類し、それぞれの一般鑑別、紫外
−可視分光分析およびEDXRFによる組成分析の結果をまとめる。
(市場性を考慮してFZ法と熱水法の報告は省略する。)

<ベルヌイ法>
 ◇拡大:カーブライン、気泡が典型的なインクルー ジョンであるが、近年の加熱の工程により、天然に
酷似した液体インクルージョンが認められるものがあり(写真−1)、注意が必要である。
また、熱歪みであるプラトー・ラインも加熱の影響で消失しているものもあり、逆に天然にもプラトー・ラインが観察されることがある。(写真−2)
◇蛍光:長波・短波とも鮮赤色を示す。
◇分光:紫外部の透過率が高い。
◇元素:Cr以外にブールの形状の維持のためと考えられるTiが検出。

<結晶引き上げ法>(京セラ、UCC、True・Gem)
 ◇拡大:宝石学では結晶亜粒界と呼ばれる歪みが認 められる。これらはディスロケーション・ネストと考えられ、
偏光下で観察しやすいが、不純物が凝集した場合はセル状(C軸方向)あるいはレイン状(C軸に垂直)として通常の拡大下で観察できる。
◇蛍光:長波・短波とも鮮赤色を示す。
◇分光:紫外部の透過率が高い。
◇元素:Crのみ

<フラックス法>
◆チャザム
◇拡大:黒い充填物のあるフェザー・インクルージョンの存在とそのうねったような分布が特徴である。
最近は加熱されたものがみられ、ガラス物質のキャビティー部の充填や一部再結晶した液膜状の透明物質が見られることがある。
またr面に平行な双晶も存在する事がある(写真−3)
◇蛍光:長波・短波とも鮮赤色を示す。
◇分光:紫外部の透過率が高い。
◇元素:Crのみ(Ti,Mo)

◆カシャン(Ruyle Laboratories)
◇拡大:ペイント・スプラッシュと呼ばれるフラックス・インクルージョンとコメット状と呼ばれるディスロケーションが特徴であるが、昨年の後半から明らかに加熱により内部特徴が変質したものに遭遇するようになった。
1)天然に酷似したフェザー・インクルージョン
2)加熱された天然に特徴的なスノー・ボールに酷似したフラックス・インクルージョン(写真−4)
3)結晶構造に沿って配列する微小インクルージョン
(写真−5)の存在は拡大検査による鑑別を困難にしている。
◇蛍光:短波は白濁蛍光
◇分光:668nm,659.2nmの吸収の位置が693.5nmより低い。
◇元素:Ti,(V),Cr

◆ラモラおよびドーロス(Fine to Gem,Included, Rough Crystal)
◇拡大:双方とも同様な製法で造られており(無核 核形成)インクルージョンは酷似している。
1)メッシュ状のフェザー
2)オレンジ味のあるフラックスが特徴的である。
◇蛍光:長波・短波ともやや強め
◇分光:紫外部の透過率やや高め
◇元素:Cr,Fe,Ga,(Pb)

◆クニシュカ
 ◇拡大:市場で遭遇することは稀であるため、これまで特徴が報告されたれは例は少ないが、―
1)ウイスプ状フェザー・インクルージョン
2)二相インクルージョン
3)メッシュ状フェザー・インクルージョン
4)色むらを伴ったジグザグ状の成長線(写真−6)が特徴的と考えられる。
◇蛍光:長波・短波ともやや強め
◇分光:天然と酷似
◇元素:Ca,Ti,Cr,Fe,K,W
(写真−7)

☆結論

鑑別上、困難を伴うことの多い合成ルビーであるが、各製法およびメーカーごとの特徴を系統的に把握することが重要である。
拡大検査および紫外線蛍光などの一般鑑別法に習熟することが最も重要であることは言うまでもないが、
紫外−可視分光分析およびEDXRFによる微量元素の分析を組み合わせることにより、ルビーの鑑別は確実なものとなる。


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