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今月の鑑別室から 1997.10
天然モルダバイト
天然ガラスの一種にモルダバイトという魅力的な宝石素材がある。同様に他の天然ガラスやこれらを模倣した人工ガラスの模造石もあり、“ガラス”の鑑別にも注意が必要である。

モルダバイトは後述するテクタイトの一種で、その名称はチェコの Moldova川の谷で産出することに由来する。モルダバイトの発見は古く、すでに石器時代から金や銀などよりも早くナイフやその他の道具として利用されていたらしい。科学的な研究が始まったのは18世紀に入ってからであるが、当時はモルダバイトの成因についてはほとんど解らず、火山ガラスであるとか、昔のガラス工房跡ではないかとも言われていた。1900年頃同様な天然ガラスがオーストリアでも発見され、これらの成因不明の天然ガラスは、ギリシャ語のtektos(熔融したの意味)からテクタイトと名付けられた。
その後、テクタイトの発見が他の地域であって、産地の名前などの固有名称で呼ぶ習慣になった。例えば北米産のテクタイトにはインディアンの名前をとったベディアサイト、州の名前をとったジョージアナイトがあり、東南アジアのテクタイトにはジャワナイト、フィリピナイト、ビリトーナイトおよびインドチャナイト等がある。その他にはオーストラリアのオーストラライト、象牙海岸のアイボライトもよく知られている。 最近の研究では、テクタイトは巨大隕石が地球に衝突した際、蒸発・気化した大量の地球物質が空中に放出され、それが急冷し、ガラス化したものと考えられている。例えばモルダバイトはドイツのリース隕石クレーターを形成した1480万年前の隕石の衝突と関連があるらしい。
テクタイトは、空中を飛来することによる特徴的な形状をしており(写真-1)、原石のままであれば火山ガラスであるオブシディアンとは区別が容易である。色はほとんどの産地のテクタイトが黒色〜褐色であるのに対して、モルダバイトとジョージアナイトは魅力的なボトル・グリーンを呈している(写真-2)
モルダバイトのサイズは通常10cm以下であるが、東南アジア産の黒色テクタイトは時に人頭大に達するものがある。屈折率は、黒色のテクタイトは1.49〜1.52であるが、モルダバイトはやや低めで1.49前後のものが多い。拡大下では、渦巻き状や糖蜜をかき回したような特徴的な流動構造(schliersあるいはswirlとも呼ばれる)が認められる(写真-3)
これらは、地表の起源物質中の石英粒子等が隕石衝突時の瞬間的な高熱(およそ2000℃)で熔融した際の不均一性によるもので、同じ天然ガラスでもマグマの冷却で生じたオブシディアンには見られない。もちろん人工の模造ガラスにも見られない。
また、化学組成を分析することができれば、テクタイトと火山ガラスおよび人工ガラスを確実に識別することが可能である。


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