>>Topへ戻る >>「Research Lab. Report」タイトルリストへ戻る

今月の鑑別室から 1997.02
コバルト着色の天然ブルースピネル
最近、コバルトが色の主因と考えられる天然ブルースピネルを検査する機会を得た。その特徴を以下に報告する。
 
“コバルトブルー”と言う言葉がある。したがって、コバルトが物質の青色の原因になることは一般にもよく知られている。しかし、宝石素材において、これはあくまでも人工着色によるブルーの話であって、青色ガラスや合成スピネルのブルーである。天然石ではコバルトが色の原因になるのは比較的珍しく、しかもその場合、通常ピンク色の原因となる(例えばピンク・カルサイトやピンク・スミソナイト)。それでもコバルトが天然石でブルーの原因になることも稀にあり、スピネルなどにその例が報告されている。
 
さて、今回紹介する石は1.711ctのミクスト・カットが施された石で色はロイヤルブルーと表現してもいいようなやや紫味を帯びた彩度の高いブルーである。屈折率は1.711 で、一般的な鉄着色のブルー・スピネルに比べてやや低めの値であった。長波紫外線下では鮮赤色蛍光を発し、短波紫外線下でも赤色蛍光を示した。同様にカラー・フィルターでも鮮赤色を示した。
このような蛍光色のため、白熱光下ではかなり強い赤みを感じ、カラー・バランスが赤色側にシフトするため、地色自体が紫味を帯びるようになる。拡大下では、天然スピネルに典型的なドロマイト・インクルージョン(実際にはネガティブ・クリスタル)や(写真-1)、微小インクルージョン(写真-2)が認められた。
ハンディ・タイプの分光器では、450nm(Fe2+による)と550nm、580nm、625nm(Co2+による)吸収およびスペクトルの赤色部にオルガンパイプ(Crによる)が確認できた。しばしば鉄着色のブルー・スピネルにもスペクトルの黄緑色部から赤色部にかけて同様の吸収バンドが観られ、コバルト・バンドと誤認されることがあるが、鉄によるこれらの吸収は555nm、590nm、635nm であり、コバルト吸収の位置とは微妙に異なる。着色元素を確認する目的で蛍光X線分析を試みた結果、Fe,Cr,Zn,V,Ga,Ti(多い順)の微量元素が検出されたが、Coは検出限界以下であった。


Copyright ©2000-2001 Zenhokyo Co., Ltd. All Rights Reserved.