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今月の鑑別室から 1997.01
天然グリーン・ベリル
最近、ミント・グリーンと呼べるような淡い色調のベリルが鑑別に持ち込まれている。これらはエメラルドとは特性が異なるので、以下に紹介する。

ベリル鉱物はBe3Al2Si6O18の化学式で表される。純粋な結晶であれば無色透明石となるが、通常アルミニウム原子を置換する微量のクロム、鉄およびバナジウム等の遷移元素によって着色している。クロムによって緑色に着色したベリルがエメラルドと呼ばれる事は言うまでもないが、鉄やバナジウムによってもグリーンを呈することがあり、これが今回紹介するグリーン・ベリルである。
研究者の間では後者のものは従来からバナジウム・ベリルあるいはタイプ
IIエメラルド等と呼ばれ、前者のエメラルドとは区別されてきた。しかし、一般のジェモロジストあるいはジュエラーの間では両者は必ずしも明確に区別されているとは限らず、変種の命名にあいまいさが残る場合がある。全宝協では、宝石種のネーミングには鉱物名をベースに、着色原因や産状を考慮し決定している。したがって、主としてバナジウムや鉄によって着色したベリルは“天然グリーン・ベリル”とし、エメラルドとは区別している。
さて、今回紹介するグリーン・ベリルの諸特徴は以下の通りである。
色調は写真-1に示すように淡いグリーンで、マンセルの色表では7.5G〜10G 7/8〜6/9 に位置する。
屈折率は1.565−1.570 でコロンビア産のエメラルドの最低値に相当する。しかし、紫外−可視分光スペクトルの解析から、コロンビア産エメラルドには通常存在しないFe2+およびFe3+が検出されている。また赤外分光スペクトルの解析からはコロンビア以外の変成岩起源のエメラルドとも一致せず、むしろアクワマリン等の一般のベリルに近似する結果が得られている。
紫外線下では長波、短波ともに不活性で、カラー・フィルター下でも変化なしである。ハンディ・タイプの分光器では、かすかにクロム・ラインが認められるかどうかという程度である。
 拡大下ではやはりエメラルドのインクルージョンとは異なり、チューブ・インクルージョン(写真-2)や二相インクルージョンなどのベリルに一般的な特徴が見られる。
殊に成長構造は特徴的でc面(0001)、m面(1010)およびp面(1011)等によって構成されており、各面に平行な成長線や各面の境界(セクター・バンダリー)がいわゆる“のこ刃状成長線”として観察される(写真−3)。このような特徴はペグマタイトや熱水鉱床起源のベリルに普遍的なものである。


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