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今月の鑑別室から 1996.010
京セラ製合成クリソベリル
先頃新聞紙上で発表された、京セラ製合成クリソベリルの宝石学的特徴について報告する。

従来、クリソベリルの宝石変種であるアレキサンドライトは、各種の製法およびメーカーにより合成石が販売されて来た。このほど、変色性を示さない合成グリーン・クリソベリルが新しく京セラから発表された。これは写真-1に示すように、ミント・グリーンと呼べる明るい色調のもので、2〜3年前にアフリカのタンザニアで発見された新種の天然クリソベリルとほぼ同様の外観を呈するものである。これまでに調査した10ピース弱の京セラ製合成クリソベリルは、サイズがほぼ1ctで、色調は彩度の高い淡めのグリーンから明るいエメラルド・グリーンであった。屈折率はα=1.738〜1.740、β=1.740〜1.742、γ=1.746〜1.747の二軸性正号晶、比重は3.65〜3.70 で、これらの特性値は先の天然石と完全に重複する。多色性は三色性、明(緑:黄緑:青緑)で、カラー・フィルター下では微赤色〜暗赤色を示した。長波紫外線下では不活性または暗いオレンジ色蛍光を発し、短波紫外線下では不活性または微黄濁蛍光を発した。ハンディ・タイプの分光器では、特徴的な吸収は認められなかった。

紫外−可視領域の分光光度計による測定では、天然クリソベリルに普遍的に認められる365nmと375nmのFe3+による吸収が認められなかった。また、天然石では紫外領域の吸収端がおよそ300nm なのに対し、合成石は230〜240nm まで透過する。
拡大下では、クリーンでインクルージョンの認められないサンプルがほとんどであったが、一部には引き伸ばされた様な気泡が認められた(写真-2)。また、ほぼすべてのサンプルに、ゆるやかにカーブした成長線が観察された(写真-3)。これは、沃化メチレンに浸漬し、白色板や補色のフィルターを用いた方が観察しやすい。
以上のような特徴から、京セラ製の合成クリソベリルは結晶引き上げ法で製造されたものと推定でき、その特徴を把握していれば鑑別上問題はないと思われる。


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